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「スマホの中の子どもたち」書評 若者のジレンマに向き合う心得

評者: 酒井正 / 朝⽇新聞掲載:2025年07月05日
スマホの中の子どもたち デジタル社会で生き抜くために大人ができること 著者:エミリー・ワインスタイン 出版社:日経BP ジャンル:学校教育

ISBN: 9784296071173
発売⽇: 2025/05/23
サイズ: 21×2cm/296p

「スマホの中の子どもたち」 [著]E・ワインスタイン、C・ジェームズ

 かつてのインターネットから想起された「自由」や「開放感」といったイメージはすっかり鳴りを潜め、今では「たこつぼ」といった言葉でネットの世界が語られることが多い。その閉塞(へいそく)感を最も感じているのは、十代の若者たちではないか。
 本書は、大人には窺(うかが)い知れない若者たちのソーシャルメディア利用の実態を、米国の社会学者が綿密な調査によって明らかにしたものだ。著者たちは、子どもはSNSに魅せられるばかりで、その危険性を理解していない、といった大人たちのステレオタイプな認識を徹底的に戒める。子どもはSNSに潜む危険性を頭では理解しているし、SNSに依存することに時に嫌気すら感じているが、巧妙に設計されたSNSの仕組みと脳の発達段階上の特性が相まって抗(あらが)えないのだという。まさに依存症の構図だ。だからといって、人々を連帯させる機能も有するSNSから離脱するのも得策ではない。
 若者がセクスティング(性的な画像等のSNSでの共有)をしてしまうのも、人間関係によるプレッシャーを感じやすいためだ。だが一部の者は、性的な画像等が拡散された場合にその提供者が識別できるような工夫もしているという。若者なりに折り合いを付けて状況に適応しているのだ。その際、大人が危険性を脅しにセクスティングを止(や)めさせようとしても、効果が疑われるばかりか、一方的に被害者に責任を帰してしまいかねない。
 結局、若者がSNSで直面する問題は、人間が社会関係を築いてゆく過程で普遍的に経験するジレンマの数々と何ら変わりがない。だからこそ、終章における著者たちの提言の数々は、SNS特有の問題への対処法というよりは、十代の若者へ向き合うための心得といった趣になっている。もちろん、SNSには社会的軋轢(あつれき)を煮詰めてダメージを増幅させてしまう側面もあるので、十分に注意は必要なのだが。実に熱量溢(あふ)れる教育論である。
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Emily Weinstein▽Carrie James ともに米ハーバード大教育大学院「プロジェクト・ゼロ」の主任研究員。