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(本の舞台裏)野坂昭如「戦争童話集」 没後10年に加えた沖縄の話

 作家・野坂昭如(あきゆき)(1930~2015)の『戦争童話集』が完全版として刊行された。「凧(たこ)になったお母さん」など12編に、沖縄戦が題材の「ウミガメと少年」「石のラジオ」を加えた。

 野坂は、戦後に栄養失調で亡くなった義妹をモデルとした直木賞受賞作『火垂(ほた)るの墓』で知られ、やさしい筆致で戦争のむごさを書き続けた。

 収録作はどれも「昭和二十年、八月十五日」と始まる。71年に雑誌「婦人公論」で連載し、75年に単行本化。文庫と合わせて16万7千部が発行された。追加の2編は、画家の黒田征太郎さんが「沖縄の話も」と野坂を説得し、2000年以降に黒田さんの絵で絵本になった。中央公論新社は、野坂没後10年の今年、絵本を出した講談社に交渉し、許諾を得た。

 担当した編集者の三浦由香子さんは「『沖縄を捨て石にした』との強い負い目からためらう野坂さんを、黒田さんが猛プッシュしたと聞く。戦後80年の今年、沖縄で起きたことを知るきっかけにもなれば」と話している。中公文庫・880円。(伊藤宏樹)=朝日新聞2025年7月5日掲載