1. HOME
  2. コラム
  3. 文庫この新刊!
  4. 微細な女性描写が際立つ「戦国十二刻 女人阿修羅」 武川佑が薦める文庫この新刊!

微細な女性描写が際立つ「戦国十二刻 女人阿修羅」 武川佑が薦める文庫この新刊!

  1. 『戦国十二刻 女人阿修羅』 木下昌輝著 光文社文庫 968円
  2. 『べっぴんぢごく』 岩井志麻子著 角川ホラー文庫 1012円
  3. 『らんたん』 柚木麻子著 新潮文庫 1210円

 闇と光の女性史がそろった。戦国時代の女性が歴史の重大局面に接する24時間=十二刻(じゅうにこく)をテーマとした短編集(1)。各編はミステリーとして「謎」が仕掛けられ、著者の抉(えぐ)るような、微細な女性描写が際立つ。評者は、吉川元春が手管を弄(ろう)し醜い姫を娶(めと)るまでを描いた『醜愛』に戦慄(せんりつ)した。織田信長の三男信孝を生んだ身分の低い女が、息子のため命をなげうつトリの『証母』も、陰惨な歴史と母親の献身のコントラストが強烈だ。

 (2)は、岡山山間部の土着習俗と因業を書いた『ぼっけえ、きょうてえ』からつづく著者の「岡山もの」の一つの集大成。乞食(こじき)から豪農の養女になった美貌(びぼう)の女シヲを起点に、その家には別嬪(べっぴん)と醜い女が交互に生まれる。そこまでは乞食も入ることが許される玄関脇の板「乞食(ほいと)隠れ」を境に、シヲと娘たちは移りゆく時代と亡者世界のあわいを冷淡に生きる。終章令和編が加筆され、因業が現代にも侵食する恐怖が増した。

 闇のあとに光が訪れる。(3)は明治大正昭和、恵泉女学園創設者・河井道と教え子の渡辺ゆりによる、女性の教育と自立の歴史小説だ。中・高を同学園で学んだ著者は、道とゆりの魂の結びつき“シスターフッド”の継承者として、おおらかかつ明朗なトーンで女と時代を活写する。道がゆりに伝えた「光はシェアしなければ。光を独り占めしていては、社会は暗いままですわ」という信念は、読む人の行く先も照らす。

 三作品、「彼女ら」の人生を分けたものはなにか。知性だなどと言うつもりはない。読者自身が考えてほしい。=朝日新聞2025年8月16日掲載