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「コーヒー2050年問題」書評 地球温暖化で適作地半減の危機

評者: 酒井正 / 朝⽇新聞掲載:2025年09月13日
コーヒー2050年問題 著者:武田 淳 出版社:東京書籍 ジャンル:ノンフィクション

ISBN: 9784487818594
発売⽇: 2025/07/08
サイズ: 15×21cm/256p

「コーヒー2050年問題」 [著]武田淳

 コーヒー豆の主な産地は赤道に近い熱帯の国々であり、それらの多くは開発途上国である一方で、コーヒーの主たる消費地は先進国である。先進国の嗜好(しこう)品が途上国の安価な労働力によって生産されることから、しばしばコーヒーは南北問題の象徴として語られてきた。しかし、現在、この単純な構図には変化の兆しが見られる。一つは、産地国の中にも経済発展が著しい国が出てきたことがある。もう一つが、本書が取り上げる「コーヒー2050年問題」である。
 「コーヒー2050年問題」とは、地球温暖化によって2050年までに世界におけるコーヒーの適作地域が半減するという予測だ。すなわち、従来の産地では今までのようにコーヒーが採れなくなる可能性が高いのだ。
 ここではたと疑問がわく。温暖化によって従来の産地が適作地でなくなったとしても、緯度や高度が高い地域に産地が広がれば、コーヒーの生産量が減るとは限らないのではないか。よかった、まだコーヒーが飲める!
 だが、本書によれば、将来、産地の地図が描き換わったとしても、これまでの産地を完全に置き換えるほど新たな産地が広がるかどうかは未知数だという。というのも、気温の面で緯度や高度の高い地域がコーヒー栽培に適するようになっても、雨量が増えれば感染症が発生しやすくなり、収穫量は思うように増えないかもしれないからだ。そもそも新たな適作地に住む人びとがコーヒー栽培を始める保証もない。といって、現在の産地で温暖化の影響を緩和するために木陰を作る木々を植えれば、今度は生産性が下がってしまう。
 文化人類学を専門とする著者が産地の目線で紹介する各国の現状は実に多様だ。簡単には解決しない問題を扱いながらも、現地の色鮮やかな写真やイラストの数々は目を楽しませてくれる。コーヒー党は、この作物の未来について自然体で考えさせてくれる本書を是非ご一読あれ。
    ◇
たけだ・じゅん 静岡文化芸術大准教授。コスタリカやパプアニューギニアといった開発途上国の環境や貧困問題を研究。