ISBN: 9784065403303
発売⽇: 2025/08/29
サイズ: 14.2×19.4cm/296p
「殺し屋の営業術」 [著]野宮有
うわっ、こんな営業マンに来られたら、騙(だま)されて消火器を買わされて以来、セールスには鉄壁防御の私でさえ、消火器はおろか消防車でも買ってしまうと思う。マジで。
本書の主人公・鳥井一樹が高校卒業後に完全歩合制(フルコミッション)の営業会社に飛び込んだのは18年前。「客観的に見て地獄のような環境」で初年度から社内表彰の常連になって以来、鳥井は、渡り歩いた会社で常にトップセールスを誇ってきた。
物語は、鳥井が深夜のアポイント先で、死体を発見するところから転がり始める。犯人と鉢合わせした鳥井は拉致られ、山奥に。バラバラにされた死体が埋まった穴に突き落とされた鳥井、絶体絶命……。
だが、ここから鳥井が本領を発揮する。なんと、自分に銃を突きつけている相手に、営業をかけるのだ。「ここで私を殺したら、あなたは必ず後悔します」
殺し屋たち――中年男の風間、身長180以上で痩せこけた金髪のミミズ――に向けて、滑らかに繰り出される鳥井のセールストーク。自らの命を担保として、自分が営業を担うことで、彼らが負っている殺しのノルマをクリアしてみせる、というのだ。期限は二週間、金額は二億(途中から三億に)!
もうね、殺し屋よりも怖いのは、凄腕(すごうで)の営業マンかも。ずっと心に空虚を抱えて生きてきた鳥井が、ルール無用、文字通り命がけの裏社会で、能力を存分に駆使することで生き生きと輝いていく様がめちゃくちゃ痛快。
ある案件(もちろん、殺し)で敵対することとなる、こちらも鳥井同様モンスター級の殺し屋の営業・鴎木美紅(かもめぎ・みく)と相棒の殺し屋・百舌(もず)とのコンゲーム的な展開は、ラストまではらはらどきどきがもつれ込む。
日本推理作家協会代表理事で乱歩賞選考委員を務める貫井徳郎氏をして「(自分が参加した)選考の中で一番面白かった」と言わしめた本書。一気読み必至です!
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のみや・ゆう 93年生まれ。作家。本作で江戸川乱歩賞受賞。『どうせ、この夏は終わる』など。漫画の原作も手がける。