泉貴人さん「カラー版 水族館のひみつ」インタビュー プロが語る業界のウラ話
イソギンチャクやクラゲの新種発見で知られる若手海洋生物学者が、中学生の時から全国を巡って通い続け、いまの仕事へ導いてくれた水族館の魅力を本にした。ユーチューバーや講演の活動では「Dr.クラゲさん」を名乗る。
「超絶立体型水族館」(大阪市の海遊館)など個性が伝わる独自のキャッチコピー、「『水族館から』消えゆくラッコ」「餌代を自分で稼ぐクラゲ!?」など気になるコラム――。「水族館業界に通じるプロの目から見た、水族館のウラ話を語れる限り語る」本は、約160館を訪ねた実績が醸すワクワク感に満ちている。
千葉県生まれ。近所の熱帯魚店になぜかいたクラゲを、飽きもせず眺めるうちに海洋生物好きを自覚、水族館巡りを始めた。東京大学と同大学院で新種発見を目指し分類学を専攻した。
当初「水族館は趣味、研究は研究」と割り切っていた。博士論文執筆でまとまった種のイソギンチャクが必要になった。深海を探りたいが調査船に同乗しても捕れる保証はない。悩んでいた頃、訪ねた水族館で「手に入れたかったイソギンチャクが普通に飼われていた」。水族館の力を借りられないかと、研究会で知り合った職員に相談、現地に突撃するうち、十分な数が集まり、趣味と研究も結びついた。今は「水族館生物学」を提唱する。
生物系の学問分野では、注目されがちな分子生物学などに比べ、歴史はあるけれど地味な分類学。世界共通の学名をつけることで、その生き物が他分野の研究対象になる、という役回りだ。レジャー施設でもある水族館と連携を強めることで社会との接点が見えやすくなった、という。「『役に立つ研究』の役に立っているとしか言いようがなかったところ、経済も活気づくと言えるようになった」
いま一番好きな生き物は、研究中の毒クラゲ、カツオノエボシという。「刺す生き物だったクラゲが、最近はきれいな生き物として人気が出てきた。それも、水族館のパワーじゃないでしょうか」(文・写真 星野学)=朝日新聞2025年10月18日掲載