作家の水村美苗さん(74)が今年の文化功労者に選ばれた。「長く日本の外にいたので、日本の文化の権力構造からはずれた人間だと思っていた。ある意味、ほかの人よりも、うれしいかもしれません」
12歳から米国で20年以上暮らし、日本文学研究者を経て、創作に専念したのは30代半ば。夏目漱石の未完の遺作を書き継いだ「続明暗」で1990年にデビューしてからは、寡作ながらも、作品はことごとく大きな賞を受けてきた。
日本文化と日本語への見識に裏打ちされた作風は、昨年、12年ぶりに発表した「大使とその妻」でも健在だ。米国人の日本文化研究者の視点から、近代以降の日本の姿を問い直した。
常に再読に堪えうる作品を心がけている。「文学を読む快楽は言葉だけしかない世界から、今ここにないものを想像すること。読む人によってそれぞれの想像が違うのがまた、豊かなんですよね」(野波健祐)=朝日新聞2025年10月29日掲載