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「ペンギンにさよならをいう方法」書評 85歳ヴェロニカ、南極で大冒険

評者: 吉田伸子 / 朝⽇新聞掲載:2025年11月15日
ペンギンにさよならをいう方法 著者:ヘイゼル・プライア 出版社:東京創元社 ジャンル:文学・評論

ISBN: 9784488011529
発売⽇: 2025/09/27
サイズ: 12.9×18.8cm/410p

「ペンギンにさよならをいう方法」 [著]ヘイゼル・プライア

 ヴェロニカ・マクリーディ、85歳。ちょっと物忘れは出ているものの、通いの家政婦・アイリーンの手を借りながら、スコットランドのお屋敷に一人で暮らす資産家の女性である。
 彼女のお楽しみは、お茶とテレビの動物ドキュメンタリー。ある日、アデリーペンギンの研究センターが資金難に陥っていることを知り、遺産をペンギンに、と思いたつ。そうとなれば、実際に南極に赴き、この目でペンギンを見なくては!
 や、ヴェロニカ、その意気やよし、なんだけど、そも研究センターからはゲストを受け入れられる余裕も態勢でもないからお控えください、ってやんわり拒絶されてるよ? それでも行くの?
 行くんですよ、ヴェロニカは。こうと決めたら一直線。センターの面々(リーダーのディートリッヒ、気難しいマイク、ブログ担当のテリー)はすぐにヴェロニカをUターンさせる作戦だったのだが、ヴェロニカ、その手には乗らず。当初の予定を超え三週間以上も南極に滞在することに。
 物語のターニングポイントは、親を亡くした赤ちゃんペンギンを、ヴェロニカがみんなの反対を押し切って、センターで育てる宣言をしたこと。そこには、ヴェロニカ自身の、秘められた悲しい過去が絡んでいた。
 最初は金にモノ言わせる、わがままかつ頑固婆のようにしか思えなかったヴェロニカが、南極での日々を重ねるうちに、どんどんどんどんチャーミングに映ってくる。なにより、雛(ひな)ペンギンの愛くるしさったら!(当初反対していたセンターの面々も、めろめろに)
 ヴェロニカのために南極まで駆けつけた孫のパトリック(南極行きの前に初めて対面。しかも印象は最悪だった)との、込み入ったドラマも読ませるし、なにより、全編、かろやかなユーモアに満ちているのがいい。
 読み終わる頃には、きっとあなたもヴェロニカ(とペンギン)のファンになっているはず!
    ◇
Hazel Prior 英の作家。アイリッシュハープ奏者でもあり、ハープ職人を主人公とした小説でデビュー。本作は2作目。