1. HOME
  2. 書評
  3. 「現代ストリップ入門」書評 無防備に晒す姿が心の殻はがす

「現代ストリップ入門」書評 無防備に晒す姿が心の殻はがす

評者: 野矢茂樹 / 朝⽇新聞掲載:2025年11月22日
現代ストリップ入門 著者:武藤大祐 出版社:書肆侃侃房 ジャンル:社会学

ISBN: 9784863857056
発売⽇: 2025/10/16
サイズ: 18.8×2.2cm/312p

「現代ストリップ入門」 [編著]武藤大祐、夏堀うさぎ

 現地取材してきた。やだ、スケベ。そう思ったあなたにこそ、読んでもらいたい。今のストリップの特徴は少なくとも二つある。一つは、女性の観客が増えたこと。もう一つは、踊り子が自分のステージを作品として作り上げていること。
 本書は、観客(男性も女性も)、研究者、踊り子、総勢十六名による、対談、鼎談(ていだん)、インタビュー、マンガ、エッセイ、解説、論考から成っており、どこを開いてもストリップへの真摯(しんし)な愛が溢(あふ)れている。それらがたんに記事の寄せ集めにならず、全体から多面的なストリップの姿が立ち上がってくる。これは編者の力(愛)だろう。
 いくつか声をひろってみよう。「踊り子が、自身の身体を見せつけるようにアクロバティックなポーズを取る時、猥褻(わいせつ)やエロ、あるいは美や芸術といった、固定化された言葉を吹き飛ばすような力強さを感じることがある」、と池田智恵さんは言う。「お客さんや照明さんと共にその場をみんなで作ってる中で、和音が美しく決まったような瞬間が起こる」とは、踊り子、牧瀬茜さんの声。山中千瀬さんは「なぜストリップに? ストリップが、大丈夫だから」と言う。何が「大丈夫」なのか。夏堀うさぎさんの言葉を使えば、「非武装というか、無防備というか」。裸を晒(さら)し、晒しきることで、それを見る観客もまた、心にかぶさっている殻がはがれていくのだろう。
 私が見たある演目はホラー仕立てで、素肌に血糊(ちのり)をなでつけるという演出だった。私は驚き、面白がったのだが、さて、観客はこれを喜ぶのか。ところがこれが大人気。六人による公演のラストは、「毘」の幟(のぼり)を立て、鎧(よろい)を身にまとった上杉謙信! 鎧を脱ぐと、白い肌が現われる。
 本紙の記者(女性)が書店のカウンターで書名を言うとき、つい小声になってしまったという。そんないかがわしげなオーラも、ストリップの魅力の一つに違いない。
    ◇
むとう・だいすけ 群馬県立女子大教授(舞踊学・美学)▽なつほり・うさぎ ストリップを考える冊子「イルミナ」を発行。