ISBN: 9784087700169
発売⽇: 2025/10/24
サイズ: 13.1×18.8cm/640p
「うまれたての星」 [著]大島真寿美
あぁ、そうだった。あれは確かに〝熱狂〟だった。毎週、毎週、ストーリーはもちろん、台詞(せりふ)まで暗記する勢いで読み込み、次週の発売を一日千秋の思いで待ちわびる。あれを〝熱狂〟と言わずして、何と言うのか。
フランス革命のフの字も知らなかった小学生だった自分を虜(とりこ)にした少女漫画。本書は、その作品をはじめ、数々の傑作を世に送り出した編集部をモデルに、少女漫画の黎明(れいめい)期と、その現場にいた人々が描かれる。
1969年、アポロ11号が月面に着陸したその年に始まり、1973年に終わる本書は、どこをとっても少女漫画への愛とリスペクトに溢(あふ)れていて、まずそこが胸熱。けれど、本書の本質はそこだけに留(とど)まらない。だってこれ、女性たちの希望の物語でもあるんですよ!
まだまだ戦争の傷痕があり、まだまだ女性たちが伸びやかに働くことが叶(かな)わなかった当時。出版社で働くことができる女性はごく限られていた。漫画誌の編集を仕切るのは、もちろん男性だ。
編集部の契約社員の女性が正社員への登用を叶えても、漫画家の先生を担当できるのはやっぱり男性で、女性は編集者として最前線にはなかなか立たせてもらえない。
日本全国の少女たちはもちろん、大人の女性たちをも熱狂させたあの漫画の編集部は、男性たちが主導していたんだ、という驚きと、まぁ、そうだったんだろうな、という納得と。だって、ふた昔前くらいでさえ、編集者は圧倒的に男性が多かったのだ。女性で編集長なんて、数えるほどしかいなかった記憶がある。
だけど、そこからの今だ。当時の少女漫画家たち、携わった女性たち、読者たちがいてこその、今だ。「少女漫画のヒロインたちの瞳には、いつでも星がきらきらと瞬いて」いて、「それは少女たちが求める光であり、輝きでもある」。
受け継がれてきた星たちの欠片(かけら)が、どうかこれからも輝き続けられる世界でありますように。
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おおしま・ますみ 1962年生まれ。作家。『春の手品師』で文学界新人賞、『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』で直木賞受賞。