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「飼い犬に腹を嚙まれる」書評 文化のゆたかな妙味を伝える

評者: 望月京 / 朝⽇新聞掲載:2025年12月06日
飼い犬に腹を噛まれる 著者:彬子女王 出版社:PHP研究所 ジャンル:エッセー・随筆

ISBN: 9784569859934
発売⽇: 2025/09/29
サイズ: 17.3×1.2cm/240p

「飼い犬に腹を嚙まれる」 [著]彬子女王 [絵]ほしよりこ

 先ごろ三笠宮家当主となられた彬子女王殿下が長年京都の大学で教鞭(きょうべん)を執られていること、子どもたちに本物の日本文化を伝えるための団体を設立し、お米や俵を手作りするなどの活動をされていることを私は寡聞にして存じ上げなかった。京都新聞と朝日新聞への寄稿をまとめた本書は、日本人に身近な食物やしきたりとその由来、また知られざる殿下の日常を、風雅かつ親しみやすい筆致で紹介する。
 季節の食べ物に込められた、陰陽道の影響でほとんど呪術的な生命や自然への祝福。「茶碗」「飯椀」と「わん」に異なる漢字を使い分ける理由。田植えと新月と神様との関係。本来新米は、天皇陛下が神々にお供えになる新嘗祭(にいなめさい)(11月23日)を経てからいただくもの……それから、やんごとなき方も電子決済を利用なさること――みなさま、ご存じでした?
 一般の日本人が忘れつつある風習の伝承を担うなど、皇族ならではのお仕事は、この国の文化のゆたかな妙味を生き生きと私たちに思い起こさせる。