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「呪文の言語学」/「渦巻の芸術人類学 死と再生のスパイラル」書評 吉祥を願う心は古今東西に共通

評者: 望月京 / 朝⽇新聞掲載:2026年01月17日
呪文の言語学: ルーマニアの魔女に耳をすませて 著者:角 悠介 出版社:作品社 ジャンル:言語学

ISBN: 9784867931042
発売⽇: 2025/08/05
サイズ: 13.3×19cm/256p

渦巻の芸術人類学 死と再生のスパイラル: ケルト・縄文から現代アニメまで 著者:鶴岡真弓 出版社:青土社 ジャンル:人文・思想

ISBN: 9784791775972
発売⽇: 2025/09/18
サイズ: 13.9×19.8cm/464p

「呪文の言語学」 [著]角悠介/「渦巻の芸術人類学 死と再生のスパイラル」 [著]鶴岡真弓

 ルーマニアで教鞭(きょうべん)を執る角さんによれば、かの地では各家庭に伝わる呪文やまじないがあり、「魔女」の存在も日常的だとか。21世紀になっても、彼女たちの広告や「吸血鬼を葬るべく村人が墓から死体を掘り起こして心臓を抜き取って食べた」事件(儀式)などが巷(ちまた)を賑(にぎ)わせたという。
 俄(にわか)に信じ難いが、『呪文の言語学』は、「魔女」が東欧の正教圏ではさまざまな知識を持った賢者として頼りにされた歴史的・民族的背景、また魔術的儀式の構成や成立条件(呪文、道具、時間、性別)等の詳細を学術的に紹介する。
 巻末対談の、角さんのルーマニア語の師でもある山田エリーザさんの話が面白い。彼女が語る「魔術」の実態や本質――塩などの道具や条件より重要なのは言葉と心の力――には、清めの塩や言霊など神道にも通じる点を見出(みいだ)せ、文化的距離がぐっと縮まる。
 「神」の象形文字にも秘められているという渦巻(うずまき)文様はさらに汎(はん)文化的だ。『渦巻の芸術人類学』は、「西はヨーロッパの『ケルト』文明、東は『日本列島』文明までの『ユーロ=アジア文明』」に頻出する渦巻の造形や表象を幅広く考察する。
 巻貝(まきがい)、植物の葉や蔓(つる)、種のつきかたなど自然界に多数観察される螺旋(らせん)や渦巻が、無限に循環する生と死を象徴する文様として先史時代の土器や土偶、ダ・ヴィンチやゴッホ、北斎らの絵画、各地の公共建築や家紋などに認められることは知られているが、本書はさらにアイルランドの現代アニメやダンス、視覚を伴わない音楽にもその影響を見出す。ダンスには些(いささ)かこじつけ感を覚えるが、各表現者がこの文様に込めたものの解明を試みながら、その壮大な一体性や連続性をも論じようとする姿勢は、まさに著者のいう「螺旋の反転力」を感じさせる。
 受難を乗り越え吉祥を願う心は古今東西共通。時代や国境を超えて人々が愛(いと)おしく思えてくる。
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すみ・ゆうすけ ルーマニア国立バベシュ・ボヨイ大日本文化センター所長▽つるおか・まゆみ 多摩美術大名誉教授。