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「砂川闘争とは何か」書評 主役にならなかった人々の経験

評者: 安田浩一 / 朝⽇新聞掲載:2026年01月17日
砂川闘争とは何か: 連帯の民衆史 著者:高原 太一 出版社:法政大学出版局 ジャンル:歴史

ISBN: 9784588316241
発売⽇: 2025/10/28
サイズ: 13.4×19.4cm/580p

「砂川闘争とは何か」 [著]高原太一

 その闘いは、流血の記憶、勝利の記録として、戦後民衆史に刻まれる。
 米軍立川基地の拡張計画が東京都砂川町(現・立川市)に伝えられたのは1955年5月のことだ。地元農民は「町ぐるみ」の抵抗運動に立ち上がる。全国から多くの支援者も駆けつけた。反対派は警官隊と衝突を繰り返し、負傷者が続出した。「流血の砂川」と呼ばれ、「土地に杭は打たれても心に杭は打たれない」という言葉が生まれた。
 これが「砂川闘争」だ。結局、米軍は基地拡張を断念。「流血」と「勝利」が砂川闘争を象徴するイメージとして定着する。
 だが、本書の主題はそこにない。描かれるのは後景化、周縁化された存在――組織による動員ではない回路で「参加」した人々や、闘いの正史からこぼれ落ちた人々の経験である。89年生まれの著者は本書を「シングルカットされたB面だけを集めたもののように」「映るかもしれません」と、あとがきで記す。
 そこには深刻でせつない物語が満ちている。地元中学校では「絶対反対派」と「条件付き賛成派」の子どもたちの間で対立があり、警官の子どもの複雑な思いがあった。教育に反対運動を持ち込むことの是非をめぐる教師たちの葛藤も存在した。また、国策と対峙(たいじ)しながら、将来への不安で表情を硬くする農家の女性たちがいた。10年前まで将校待遇だった元軍医たちは労組の一員として闘争に加わり、若い警官に警棒で殴られるという経験をした。
 私が初めて知ったのは、ハンセン病療養者たちによる「連帯」の意思表示だ。近隣地域には国立ハンセン病療養所多磨全生園があった。療養者たちは理不尽を強いられた経験から、権力の横暴を誰よりも理解していた。だからこそ農民たちに共感した。隔離された状況の中から連帯の歌を詠んで闘争に「参加」した。
 「衝突」の主役にはならなかった人々の存在が、闘争の実相を塗り替える。
    ◇
たかはら・たいち 1989年生まれ。成城大研究員、大学非常勤講師。「米軍立川基地拡張反対運動の再検討」で博士号(学術)。