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「あなたの見ている世界を、私も見てみたい」書評 異なる他者を受け入れているか

評者: 野矢茂樹 / 朝⽇新聞掲載:2026年01月17日
あなたの見ている世界を、私も見てみたい:自閉スペクトラムな26人の物語 著者:ジョディ・ロジャーズ 出版社:東洋館出版社 ジャンル:社会・政治

ISBN: 9784491063935
発売⽇: 2025/12/22
サイズ: 18.8×1.8cm/360p

「あなたの見ている世界を、私も見てみたい」 [著]ジョディ・ロジャーズ

 「てっきり自閉スペクトラムのことを書いた本だと思っていたけど、違いました。この本は、みんなのことを書いた本です。」この言葉が、本書を読む鍵となる。
 自閉スペクトラムは難儀な状態である。エミリーは、スーパーがリニューアルされて様子が一変していたので、パニックに陥ってしまう。トニーは、プールの更衣室を使うときに、「更衣室に行く、水着を脱ぐ、シャワーを浴びる、服を着る」と言われたのだが、びしょびしょの姿で戻ってきた。彼は言葉を文字通りにしか受け取れず、シャワーを浴びて、そのまま服を着たのだ。サラは、他者の見方や感じ方が分からず、相互的なコミュニケーションが成立しなかった。
 本書では、自閉スペクトラムである二十六人を軸に、多くの人たちのエピソードが語られる。そして著者自身の長年の支援活動の経験から、それらがどういう状態なのかが解説される。その意味では、まちがいなく自閉スペクトラムについての理解が深まる。だがそれ以上に、自分のことを書いた章を読んだ人の発した、「みんなのことを書いた本」という言葉が重みをもつ。
 私はこの本を読んで自閉スペクトラムな人の感じ方、見方、考え方を理解しようとしている。こんなふうにして自分とは異質な、あるいは典型からはみ出た人たちと向き合っていくのか、と学んでいく。だが、ふと気づけば、それはすべての他者に均(ひと)しく向けられるべき態度なのだ。多かれ少なかれ誰もが「典型」からはみ出している。その異質性を受け入れられるか。目の前のこの人は自分とは違う。それを受け入れる、ただそれだけのことができているか。自閉スペクトラムについて以上に、むしろ私自身の態度を見直させられた。たいせつに思っている人なのに、どこかその人をきちんと受け入れていない。その思いは、けっこう私の心の深いところまで届いた。
    ◇
Jodi Rodgers 特別支援教育の教師やカウンセラーなどを務め、教育・障害・セクシュアリティーの問題に取り組む。