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「パレスチナ実験場」 実証済み兵器への誘惑に抗する 朝日新聞書評から

評者: 酒井啓子 / 朝⽇新聞掲載:2026年02月21日
パレスチナ実験場──世界に輸出されるイスラエルの占領技術 著者:アントニー・ローウェンスティン 出版社:岩波書店 ジャンル:政治

ISBN: 9784000617352
発売⽇: 2025/12/11
サイズ: 2.7×18.8cm/366p

「パレスチナ実験場」 [著]アントニー・ローウェンスティン

 昨年10月に停戦が成立したガザだが、その後もイスラエルによる攻撃は続き、ガザでの死者はおよそ600人に上るとされる。
 繰り返されるイスラエルの対パレスチナ軍事攻撃を見れば、疑問を抱かざるを得ない。なぜイスラエルはガザをここまで徹底的に破壊するのか、なぜ周辺国にまで攻撃の手を広げるのか、と。
 本書は、こう回答する。イスラエルが「占領地[パレスチナ]で実戦テスト済み」の武器、技術を広く国際的に売り込むために、「パレスチナ人との紛争が永遠に続くよう望」んでいるのだ、それがイスラエルを支える防衛産業の原動力だからだ、と。
 実際の戦場が軍事産業の見本市、軍事ショーとなることは、パレスチナに限ったことではない。だがイスラエルは、その占領地で土地と住民を相手に、好き放題に兵器実験をしてきた。どれだけ多くの敵を殺害できるか、本来庇護(ひご)することが国際法で定められている占領地住民を相手に「実験」し、その高性能を証明する行為に、背筋が凍る。
 本書は、イスラエルが最新鋭の武器、軍事技術輸出国として世界中の戦争の裏方として働くだけでなく、独裁政権の確立、難民や少数民族の排除を支えていると指摘する。
 武器商人としてのイスラエルの対外ネットワークの広さは、驚きだ。最近のベネズエラ攻撃に見られるような米国の中南米支配には、イスラエルが貢献してきたことが示される。アパルトヘイト時代の南アフリカや内戦下のスリランカ、カシミール問題に対峙(たいじ)するインドでは、反政府勢力の鎮圧、抑止に協力した。
 ムスリムの国も例外ではない。スハルト政権下のインドネシア、アラブ首長国連邦のスパイ企業などとの密な関係が指摘される。
 なにより衝撃的なのは、EUや米国の難民・移民の排除政策に、イスラエルのハイテク国境管理システムが歓迎されていることだ。「イスラエルの技術と監視のモルモット」として扱われるパレスチナ人の状況が、EUにとって「自らの領域内で模倣すべき成果」であるとの指摘に、難民の人権をもっともらしく語るEUのおためごかしを見る。イスラエルの占領地政策の非人道性を非難しながら、結局「イスラエル式の支配」に、世界中の国が「根強い誘惑」を感じていることに、ぞっとする。
 今年初め、日本の国会議員が、日本の安全保障政策の検討を念頭にイスラエルを訪問、防衛産業を視察した。軍事強化を声高に語り「地球上で最も侵略的かつ致死的な軍事装備を欲しがる国」には、日本になって欲しくない。
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Antony Loewenstein ユダヤ系オーストラリア人・ドイツ人のジャーナリスト。父方の曽祖父母をホロコーストで亡くす。本書は報道を対象とした豪州の「Walkley Book Award」を始め数々の賞を受賞。
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河野純治訳