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「〈平等〉の人類史」 想像し恐れ希求する思想の連鎖 朝日新聞書評から

評者: 高谷幸 / 朝⽇新聞掲載:2026年03月21日
〈平等〉の人類史: 先史時代からアイデンティティ・ポリティクスまで 著者:ダリン・M・マクマホン 出版社:作品社 ジャンル:歴史・地理

ISBN: 9784867931301
発売⽇: 2026/02/04
サイズ: 13.3×19.1cm/520p

「〈平等〉の人類史」 [著]ダリン・M・マクマホン

 格差社会、「親ガチャ」、「1%対99%」……。国内でも海外でも不平等は当たり前の現実になっているかのようである。不平等をめぐる議論も盛んだ。一方、その反対概念である平等については、あまり論じられてこなかった。
 そもそも平等とは何を意味するのだろうか? 平等は、近代のアイデアとも考えられがちだが、本書は、太古に遡(さかのぼ)り、平等という観念の歴史を明らかにする。
 民族誌学などが明らかにしてきたように、狩猟採集社会では、下位の者たちが協力して支配者の権力を制限するなど多様な戦術と平準化のメカニズムに基づく平等主義が成立していた。しかしその後、農耕を基盤に登場した初期国家は、古代の平等を崩壊させた。当時の国家は、少数者が多数を隷属させる制度をもち苛烈(かれつ)な不平等を生み出した。
 だが興味深いのは、この状況が、新たな平等の観念を生み出す契機になったことだ。つまり枢軸時代と呼ばれる、紀元前五〇〇年の前後数百年間に生まれた世界の主要な宗教や哲学は、初期国家における不平等を批判し、異なる人びとがもつ同様性(同じもの)に着目し仲間意識としての平等の観念を発明した。
 その後、古代ギリシャ、ローマキリスト教期、啓蒙(けいもう)主義時代、フランス革命という歴史の画期において平等は、絶えず差異と同様性の緊張関係のなかで見出(みいだ)され、批判され、彫琢(ちょうたく)されてきた。この緊張は、現代まで続く。
 同時に平等は感情を搔(か)き立てる発想でもある。人は公平に扱われ認められたいと願う一方で、区別・評価されることや卓越した地位も求めるからだ。この両義的な感情は、ファシズムによる「民族の平等」を支える一方、植民地独立や人種・ジェンダー差別からの解放の原動力ともなった。
 この両義性はまた、誰の間の平等かという問いともつながる。実際にも平等は、その誰の範囲から除外する人びとを作り出す営みを常に伴ってきた。つまり一見逆説的だが、排除や序列は、平等の基盤であり、それを強化するものでもあった。
 ただ現代は、平等を想像することさえ難しくなっているようでもある。しかしこの危機にあってなお、人びとは、公民権運動など過去の革命的エネルギーを呼び起こし、潰(つい)えかけた夢を取り戻そうとする。平等はいつだって想像であり、それゆえ現実の不平等に立ち向かう力となってきた点は昔も今も変わらない。
 西洋に偏るきらいはあるが、平等を想像し、恐れ、希求してきた思想の連鎖を描く本書は、地位を求めて蠢(うごめ)く人間たちの相剋(そうこく)史でもある。
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Darrin M. McMahon 米ダートマス大歴史学教授。本書の副題は「先史時代からアイデンティティ・ポリティクスまで」。フランスの経済学者トマ・ピケティが推薦の言葉を寄せている。
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東郷えりか訳