「ライプニッツの輝ける7日間」書評 最善の世界めざし提案を続けた
ISBN: 9784105902056
発売⽇: 2026/01/29
サイズ: 18.8×2cm/320p
「ライプニッツの輝ける7日間」 [著]ミヒャエル・ケンペ
ライプニッツは知の巨人だが、わかりやすくはない。一つのことに特化せず、あまりにも多くの領域で近代的精神の土台となる業績を残したからだ。こういう人物の伝記を書くのは容易ではない。だが、本書は彼の人生に重要な七つの日付を扱う映画のような構成でそれを成し遂げた。
彼はニュートンとほぼ同時期に微積分を思いついた人物であり、2進法計算術の考察をしたことでも知られる。哲学では最善世界説という考えを唱えた楽観主義者とみなされる。だが、いずれも多彩な活動の一部でしかなく、外交官、歴史編纂(へんさん)者、中国愛好家、技術発明家、行政改革提案者などの顔も持っていた。
その知的好奇心は旺盛で、朝から晩まで時間があれば調べ物や執筆をして過ごしたようだ。しかも紙が貴重だった時代なので、隙間までびっしりと、思いついたアイデアが分野横断的に書き連ねられていたという。定住せず、本人も異なる宮廷を行き来する「転がる石」でいたいと願い、ときにはスパイ容疑をかけられつつも、そのように生きた。
本書はそうして残された史料を知り抜いた歴史家による伝記である。緻密(ちみつ)な考証にもとづき、彼の睡眠習慣や食べ物、服装、行動のくせまで、息づかいが伝わるような筆致で描かれる。また、斬新なことに昆虫のハエがたびたび現れて、ライプニッツの性格描写や、思想の説明において重要な役割を果たす。
だが、何といっても本書の醍醐(だいご)味は、類い稀(まれ)な精神の生んだ知の小宇宙をのぞき込むような感覚にある。そこでは数学と神、善と悪、そして歴史研究とハエすらも、互いに連関しあい調和する。
混乱の時代にあっても、彼は最善をめざして努力する人間を肯定した。どれだけ追い払われても諦めず、ハエの如(ごと)く「頑固な無頓着さ」で世界を改良する提案を領主に続けたという。その豊かな着想と鈍感力にあやかりたくなる。
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Michael Kempe 1966年生まれ。歴史学者。ドイツのゲッティンゲン科学アカデミー・ライプニッツ研究所長。