ISBN: 9784867931257
発売⽇: 2025/12/24
サイズ: 13.5×19.1cm/736p
「チャーチル伝」 [著]フランソワ・ケルソディ
チャーチルの伝記は世にあふれている。その分、彼に対する評価も多様である。イギリス帝国の栄光にしがみつく頑迷で差別的な人物という批判もある。だが、第2次世界大戦を連合国側の勝利へと導いた立役者の一人であることは疑いようがない。浮き沈みの激しいチャーチルの政治家人生を長所も欠点も含めてまるごと読者に示したところに本書の真骨頂がある。
チャーチルの政治家としてのキャリアは長い。25歳で庶民院議員として初当選し、精力的に活動したものの、65歳で首相の座につくまでは総じてぱっとしなかった。駆け出し時代には社会政策の導入に力を尽くしたが、内務大臣としてストを鎮圧し労働者の憎しみを買った。
第1次世界大戦は海軍大臣として迎えたが、ダーダネルス作戦の無残な失敗の全責任を負わされ辞任する。「制御不能で何にでも手を出したが」り、「あふれんばかりの想像力と危険な衝動性」をもつチャーチルの性格が裏目に出たケースである。戦間期には何度も落選の憂き目にあう。インドへの自治付与の提案にかたくなに反対して世論の失笑を浴びた。
第2次世界大戦下ではドイツの猛攻を受ける中で首相に就任、火を噴くような雄弁で国民を鼓舞し、反転攻勢のきっかけを与えた。その後も薄氷を踏む状況が続くが、でしゃばりで勝手気ままという性格が功を奏す局面もあった。だが、ドイツを降伏させたにもかかわらず、総選挙で労働党に敗北、下野を余儀なくされる。冷戦下で再び首相に返り咲くが、老齢にはあらがえず、80歳で辞任した。
本書を読むと、あるべき政治的リーダーシップとは何かを考えずにはいられない。著者によれば、チャーチルは、「自分の意見と一致した場合にしか他者の意見に関心を示さない」。天才にありがちなこの傲慢(ごうまん)さはなるほど彼の判断を誤らせ、無用な敵を作る一因となった。だからといって、世論の支持を得ること、選挙に勝つことのみに腐心する政治家が優れた政治家なのであろうか。おそらく答えは容易には導けない。長所と短所、成功と失敗は簡単に切り分けられるものではない。政治や外交に潜む一筋縄でいかないパラドクスを示すことが本書の狙いであろう。
著者ケルソディはフランスの歴史家。英仏両国で高く評価される国際派である。ダンケルクからの撤退、ドゴールとの根底ではかみ合わない関係、ヴィシー政権下の仏軍に対する英軍の攻撃(メルス・エル・ケビール海戦)など、英仏関係についての陰影に富む記述も注目に値する。
◇
François Kersaudy 1948年生まれ。フランスの歴史家。専門は外交史、軍事史。オックスフォード大、パリ第1大で教えた。本書で文芸家協会大賞、政治家評伝大賞。チャーチル『第2次大戦回顧録』新仏語訳も手がけた。
◇
大嶋厚訳 君塚直隆解説