ISBN: 9784478123867
発売⽇: 2026/03/04
サイズ: 18.8×2cm/248p
「本当のことを書く練習」 [著]土門蘭
「新聞の書評委員」は私の長年の夢でした。肥沃(ひよく)な専門畑をお持ちの先輩方と違い雑食型ながら精一杯務めます。どうぞ宜(よろ)しくお願い致します。
さて、芽吹きの季節を迎え、悩み相談されることが妙に増えた最近。私は「まず自分の本当の気持ちを書き出してみては」とお勧めするのですが、数日後、「うまく書けない」という別のお悩みへ展開。折よく本書を読み、その作業の難しさを再認識しました。
小学校4年生の算数の授業中、人生初の希死念慮を抱いた著者は、今の自分の状況や気持ちなどを、ノートにひたすら書くことで、その危機を脱したといいます。
このプロローグから既にヒヤリとするリアリティが漂い、長じて文筆家となり、今の自分の「ほんとうのことを書く」重要性を追い求めてきた筆力が伝わってきます。
そこに辿(たど)り着くため、またその威力を最大限活(い)かすためのレクチャーは、多様な執筆群をこなしてきた経歴から、多岐にわたり詳細です。そしてなにより、全てが熱い。
序章「私たちはなぜ『ほんとうのこと』が書けないのか」をわけ知り顔で悠々読みだしたところ、徹底して「書く」ため「『読む私』にもご退出願う」にドキッ……。第2章内、「それっぽい言語化は『ほんとうのこと』ではない」で拙文は大丈夫か心配になりつつ、「ほんとうの語彙(ごい)」では何度も深く頷(うなず)きました。
続く第3章からはさらに実践的な内容へ。場面ごとに著者の実体験が脈打ち、詳(つまびら)らかな自己開示が徹底されている反作用として、常に「あなたはどうする?」と問われている感覚に襲われます。
指南書として親切設計でありつつ、「書くこと」を「生きること」と直接的に繫(つな)げ、本当の自分を投じ続けてきた文筆家のドキュメンタリーとしての一面も、魅力の一つです。ペンを片手にノートを、またはスマホのメモアプリをすぐにでも開きたくなる、実の詰まった一冊です。
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どもん・らん 1985年生まれ。文筆家。著書にエッセー集『死ぬまで生きる日記』や小説『戦争と五人の女』など。