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「フェイクニュースの免疫学」書評 誤情報の拡散にワクチンで対抗

評者: 植原亮 / 朝⽇新聞掲載:2026年04月11日
フェイクニュースの免疫学――信じたくなる心理と虚偽の構造 著者:サンダー・ヴァン・ダー・リンデン 出版社:みすず書房 ジャンル:社会学

ISBN: 9784622098393
発売⽇: 2026/03/18
サイズ: 19.1×2.7cm/416p

「フェイクニュースの免疫学」 [著]サンダー・ヴァン・ダー・リンデン

 コロナ禍という歴史的な経験でわれわれが学んだのは、感染症がときにすさまじい勢いで拡大することだ。だがそれだけではない。パンデミックにまつわる誤情報もまた猛烈なスピードで拡散し社会に広く影響を及ぼすことも、痛切に思い知ったのである。ウイルスは生物兵器だとか、ワクチンは人体にチップを埋め込もうとするビル・ゲイツの陰謀だとか。
 では、その種の誤情報やフェイクニュースを信じてしまうのは、どんな心理的メカニズムのせいなのか。それが世界を瞬く間に駆け巡るのは、どんな情報環境に取り巻かれているからなのか。本書の第Ⅰ部と第Ⅱ部では、もはや定番とすらいえるこうした問題について、最新の知見や生々しくも恐ろしい現実の事例を盛り込みながら、整理の行き届いた読み応えのある解説をしている。
 しかし、研究者としての著者の最も重要な貢献は、続く第Ⅲ部で報告されている内容である。誤情報は、まさにそれ自体がウイルスのごとき感染力をもっている。だとしたら、誤情報に対抗するためにも、実際の感染症と同様の手が打てるのでは? すなわち、「心理的ワクチンの接種」という策である。有害な誤情報をウイルスになぞらえ、接触に備えて事前に「免疫」を獲得しておこうというわけだ。この発想そのものは珍しくないだろう。だが著者の研究が革新的なのは、そうしたワクチンの試作品を実際に作ってみせたところにある。
 とりわけ秀逸なのが、心理的ワクチンをゲームの形でデザインした点だ。プレイヤーに課されたミッションは、自らフェイクニュースを作り出してバズらせること。それを通じて誤情報のもつ特徴が楽しく学べるのである。誤情報にワクチンで対抗するというアイデアは企業や政府の関心を集め、それ自体が広範に拡散しつつあるという。本書後半はそのドキュメントとしても興味深く読めるに違いない。 
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Sander van der Linden 英ケンブリッジ大教授。専門は社会心理学。共著に『現代誤情報学入門』(加納安彦訳)。
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笹原和俊監訳 松井信彦訳