ISBN: 9784140887554
発売⽇: 2026/02/10
サイズ: 11.3×17.1cm/320p
「予備校盛衰史」 [著]小林哲夫
予備校って何ともいえぬ切ない感じがする。1970年前後に予備校に世話になった者としては、高校でも大学でもない、〝浪人〟のよすがとして懐かしい。よき著者を得て、ここに予備校の歴史本ができた。年代的にも地域的にも予備校で日本を読み解く試みは、すごく挑戦的である。
それは風土記風でもあり、戦国史風でもあり、また予備校講師の存在の叫びの集録でもある。とにかく面白いのですよ。経営史としても読めるしね。それにも増して、予備校講師と学生とのやりとりを読むだに、学問や教育って周辺からどんどん面白い事象として現れるのだなと改めて思う。
我が家は三代続けて予備校にお世話になっている。父は第一高等補習学校、私と息子は駿台予備校。オモロイ講師の話題にコト欠かなかった。本当にこの本で取り上げているような摩訶(まか)不思議な講師であふれていたなあ。権威とか威圧とかを一切感じなかった。あるのは、コイツだと当て勘ですーっと入っていけるかどうかの講師の人格へのこちらの好悪の情でしかない。私はこの本にあるいくつかの予備校に顔を出したことがあるが、後に文化勲章を受章したエライ国文学者の講義を、何とモグリの大学院生とともに聞いたことがある。しびれるほど味わいある講義だった。我が高校の教師がバイトで予備校でも教えていることを知り潜り込んだら、同じ科目をはるかに生き生きと教えていてびっくりしたこともある。
古き良き時代の予備校から、今やオンラインで現役生中心の予備校に変わったという。でも、講師と学生の出会いの勝負と面白さは変わっていないのではないか。人物月旦はなお掘り下げると面白い発見があろう。予備校太平記を続けられるのは、時代ごとに面白い人材を輩出しているからに他ならない。日本はまだ大丈夫だよ、きっと。「ここは人生の予備校です」。さる名物講師の至言なり。
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こばやし・てつお 1960年生まれ。教育ジャーナリスト。『大学ランキング』編集担当。著書に『「旧制第一中学」の面目』など。