みねおみつさんの絵本「モノレールのたび」 実在の路線をモデルに2年取材 変化に富んだ6.6㎞の旅路を一冊に
――「ココン カカン ココン カカン」。レールにぶら下がり、空を飛ぶように走るモノレール。町をぬけ、山を越え、トンネルをくぐり、海のある隣町まで空中散歩が楽しめる、みねおみつさんの絵本『モノレールのたび』。モデルになったのは、神奈川県の大船駅と湘南江の島駅間を走る「湘南モノレール」だ。
最初にモノレールを題材にしようと思ったのは、「千葉都市モノレール」との出会いがきっかけです。千葉市美術館に出かけたときに、千葉駅を出てふと見上げたら、道路に沿って長い橋のようなものが見えて。高速道路かなと思って見ていたら、ビルの間から電車が飛んできたんです。「これはなんだ!」と驚きました。当時、「富山ライトレール(現・富山地方鉄道)」を題材にした絵本を考えていたのですが、なかなかうまくいかなくて、そんなときに千葉都市モノレールを見てしまって。モノレールとライトレール、両方のラフを作って編集者と検討した結果、「モノレールにしよう」ということになりました。
モノレールには、レールの上を走る「跨座式(こざしき)」と、レールからぶら下がって走る「懸垂式(けんすいしき)」がありますが、懸垂式の方が空を飛んでいるみたいで絵的にも面白いなと思いました。現在日本では、懸垂式は千葉と湘南の2つだけです。千葉は、子どもの頃に雑誌で見た未来都市のようで面白かったのですが、湘南モノレールに乗ってみたら、高低差があったり、急カーブがあったり、トンネルがあったり、変化に富んでいてジェットコースターに乗っているみたいで驚きました。単線のために駅ですれ違うためにポイントの切り替えがあるなど、取り上げたい材料もたくさんあるんです。千葉に比べてコンパクトなので、面白さが凝縮されている感じがして、お話を盛り上げていくのにもいいなと思い、湘南モノレールをモデルにしました。
――取材では乗るだけでなく、線路沿いも歩き回ったという、みねおさん。
車窓や先頭車両から見える景色だけでなく、下から見上げた列車の姿、町中や山の中を走る様子、いろいろなアングルから写真を撮りました。外から取材した方が多かったですね。2年くらい通って、何度も全線を歩きました。
湘南モノレールができたのは、1970年代。世の中が車社会になり、路面電車を走らせるのが難しくなってきたとき、新しい交通機関として登場しました。湘南モノレールは変化に富んだ地形を走るので、懸垂式が急カーブや急勾配に強いことをアピールするという意味でも、実験的な路線になったそうです。私は新しいものを開発して先に進もうとか、挑戦していこうという技術者の熱意に興味があるので、そういう背景も魅力的でしたね。
――作品で描かれたのは、全距離6.6kmを走る、モノレールの旅。駅や車内の様子、ポイントの切り替え、トンネルの中、車庫の様子などが細かく描かれている。
見どころが多い路線で、場面場面が絵になります。路線が曲がりくねっている様子は上から見るとわかりやすいと思って、空から見た景色にしました。モノレールにトンネルがあるだけで面白いですが、トンネルの中が坂になっているのもすごくて、はじめて乗ったとき驚きました。登山電車にもあまりないようなきつい傾斜なんです。終点に近づくと海が見えてあっと驚く、そういう構成が面白くできたなと思っています。
――湘南モノレールが主人公の本作だが、もうひとつ、乗客である親子の物語も描かれている。
モノレールは公共交通機関なので、当然、いろんな人が乗っています。いろんな人がいろんな想いをもって乗っていることも表現したいと思いました。「ああ、そうなんだ」って感じてもらえるようなものを盛り込みたくて、電車に乗っている親子をサイドストーリーとして描きました。私は、電車に乗っているとき、みんなどこへ何をしにいくんだろうって思うことがあって、そんな日常にすれ違う、乗客の物語を表現してみたかったんです。
――モノレールの話として読んでいくと、最後の裏表紙で親子の存在に気づき、最初に戻って、今度は親子を追って読むのも楽しい。
そうやって読んでもらえるとうれしいです。そこが絵本のいいところですよね。
――「ココン カカン ココン カカン」モノレールの効果音も特徴的だ。
物語の演出として音を入れました。テキストだけだとリズムがない感じがして。私は絵が本業なので文章のことはよくわかりませんが、音楽的な響きがある文章の方が軽快になるというか、文章に親近感が持てるような気がします。読み聞かせでも、音的なものがあると面白いなと思っています。ただ、実際のモノレールの音とは違って、文章の合いの手のようなもので、こんな音がするとリズムになるかなという感じで、ところどころに入れました。
音の表現は、絵本のデビュー作になった『でんしゃは うたう』の影響もあります。文章を担当された三宮麻由子さんが書く独自の音がすごくて、素晴らしいなと思いました。とてもいい経験になりましたね。
――『モノレールのたび』は、月刊科学絵本「かがくのとも」(2014年2月)で刊行後、人気を集めて単行本化されることに。
湘南モノレール側も単行本化をすごく喜んでくれて、一緒に盛り上げてくれました。絵本の刊行に合わせて「モノレールのたび号」という列車を走らせて、発車式によんでいただいたり、絵本に出てくる景色が見える「おさんぽマップ」を作ったり。地元の方にもよろこんでいただけたようで、うれしかったですね。
――これまでも乗り物作品を多く手がけてきた、みねおさん。新刊は、モノレールと一緒に検討していたライトレールの絵本だ。
6月に『LRT しんかした ろめんでんしゃ ライトレール』という本を福音館書店から刊行します。長い時間をかけて、やっと発表の時が巡ってきたという思いです。最初に取材していたのは富山の「富山ライトレール」でしたが、絵本のモデルになったのは栃木県宇都宮市を走る「宇都宮ライトレール」です。ライトレールは、昔の路面電車よりも低床で乗り降りがしやすいのが特徴。宇都宮ではこの車両を走らせるために新しくレールを敷いたり、橋を作ったりするなど、日本で初めて全線を新設した路線というのが決め手になりました。絵本の見返しに各地の路面電車を描くなど、絵を描くのに思いのほか時間がかかってしまって、作中に描いた桜の季節には間に合いませんでしたが、「路面電車の日(6月10日)」に刊行できることになったのはよかったです。
――絵本作りでこだわるのはやっぱり取材だという。
実際にあるものをモデルにすることが多いので、間違いのないように取材はしっかりしています。『モノレールのたび』は月刊科学絵本「かがくのとも」の一冊として出たので、知識的な部分をどううまく伝えるか苦心しました。間違いのないようにした上で、自分のオリジナリティをどうやったら出せるかも考えます。料理人が料理をするとき、同じ素材でどう自分の腕をみせるかというのと同じです。表現したいことをどう表現するか。なかなか難しくてできないんですけど、そういうところが面白くもあり、やりがいを感じますね。そして、できるだけ面白いものにしたい。面白く読んでもらえるのが一番うれしいです。ぜひ、『モノレールのたび』を楽しんで読んでください。