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「マングース・ヒストリー」書評 奇跡の人事が生んだ外来種根絶

評者: 美村里江 / 朝⽇新聞掲載:2026年05月16日
マングース・ヒストリー: ひとつの島を守るということ 著者:亘 悠哉 出版社:東京大学出版会 ジャンル:社会・政治

ISBN: 9784130639699
発売⽇: 2026/02/25
サイズ: 18.8×2cm/176p

「マングース・ヒストリー」 [著]亘悠哉

 〝ドードー鳥〟に惹かれると同時に、「絶滅」という言葉を知りショックを受けた幼少期。そんな生物好きの私は、2024年9月の環境省の発表に大変驚きました。「奄美大島のマングース根絶」。その大快挙の秘密を覗(のぞ)ける一冊です。
 舞台となる奄美大島は東京23区以上の広さ。アマミノクロウサギを筆頭に小動物たちの生態の紹介と写真から、物語は幕を開けます。
 この小動物たちを捕食してきたマングースですが、彼らも人間の都合で連れてこられた身です。
 1910年、沖縄本島で野ネズミからサトウキビを守る対策として初導入。奄美へは50年代後半以降「ハブとマングースの興行目的で流入」したようで、かつての通説「ハブ対策」は、後付けの可能性があるそうです。
 根絶事業の具体策として、生け捕り罠(わな)から捕殺罠への転換、ほかの生物が罠にかかる混獲への対応、知識のない人でも戦力になってもらえる体制の工夫など、解説が興味深く。しかし、多くの困難な壁は人間社会ゆえのものであったりします。
 奄美の地元民の話からすぐにマングースの存在確認に動き、社会周知や行政への働きかけに尽力した獣医師、阿部愼太郎氏が環境省で当事業の担当者に就任したことを、著者は「奇跡の人事」と表現しています。
 現場と行政の温度差は世の常ですが、「問題ない」ことにしたいお上、報奨金制度の変動、行政事業レビューでのまさかの低評価など……。
 専門外の人たちへの説明や、継続的な数字での実証の苦労が偲(しの)ばれますが、これらの手間を貫ける「人事」こそが鍵でしょうか。この快挙を他地域で再現するには、優秀な人材とチームワークが欠かせないようです。
 時にハブやブユに咬(か)まれながら、長年かけて幅広く生物相を追う著者の忍耐力。本書の写真群から感じられる生き物全般への「愛」も、原動力として必須であると感じ入った一冊でした。
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わたり・ゆうや 1977年生まれ。森林総合研究所野生動物研究領域チーム長(保全生態学)。共著に『森林と野生動物』など。