ISBN: 4641126712
発売⽇: 2026/5/29
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「管見 最高裁判所」 [著]宇賀克也
駆け出しの司法記者として最高裁を取材したころ、退官まもない元判事がつぶやいた。「本音を言えば、個別意見を書くことほど消耗する仕事はない。多数派に同調すれば一瞬で済むのに、あえて独自の論を張るには相当な覚悟が要ります」
ここで言う個別意見とは、多数意見の結論に異を唱える反対意見のほか、別の理由を述べる意見、論拠や説明を加える補足意見を指す。最高裁に持ち込まれる年間約1万件のうち、実質審理がされて個別意見まで付くのはごく少ない。
その点で際立つのが本書の筆者である。昨夏まで最高裁判事を6年余り務めた人だが、個別意見の旺盛さで脚光を浴びた。袴田巌さんら3件の再審請求審で反対意見を連発。「すぐに再審を開始すべきだ」と訴えた。
経済産業省に勤めるトランスジェンダー職員が「女性トイレを自由に使いたい」と訴えた訴訟では補足意見を書いた。「経産省は本人に手術を受けよと督促するばかり。必要な省内研修を怠った」と役所の怠慢に鋭く切り込んだ。本書にはそれらの熱い個別意見が38件も収められている。
読んで印象深いのは裁判官と調査官のせめぎ合いを描く章だ。豊富な裁判官経験を持つ38人の調査官が事案を前さばきし、分析した後に精緻(せいち)な報告書を裁判官に提出。そこには裁きの結論が一つだけ書かれるという。
報告書の中には判例を絶対視するものもあり、裁判官が最新の学説動向を踏まえて判例を乗り越えようとすれば、知的なあつれきが生じる。解決策として著者が提案するのは、①調査官が複数の結論を提示できるよう改めること②調査官室に中堅の法学者を採用すること。改革案に具体性が高い分、事態の切実さがよく伝わった。
残念ながら担当記者だった頃の私にはこれほどの内奥は見えていなかった。司法界の頂点に身を置いた著者ならではの誠実な「ルポルタージュ」として堪能した。
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うが・かつや 1955年生まれ。東京大名誉教授。専門は行政法。19年3月~25年7月、最高裁判事を務めた。