ミステリーのトリックはすでに出尽くしたと言われるなか、ひたすら物理法則にかなったトリックを使った小説を書き続けているのが北山猛邦さんだ。最新長編「『石球城』殺人事件」(講談社)は、終末感漂う世界で13の密室殺人が起きる。過剰なまでにトリックを詰め込んだ「物理の北山」の本領発揮の一作になっている。
氷原を旅していた少年ルーサは城塞(じょうさい)都市の石球城に迷い込む。永遠に明けない夜の闇を13の灯台がぼんやり照らす街は、9人の王と灯台を守る13人の巫女(みこ)によって秩序が保たれていた。ルーサは城にたどり着いた経緯を知るため、巫女のカヮクの灯台を訪ねるが、彼女は密室で首を切られて死んでいた。殺人の疑いをかけられたルーサは犯人捜しに乗り出す。
2002年にメフィスト賞を受けたデビュー作「『クロック城』殺人事件」から続く「城」シリーズの21年ぶりの新作。「クロック城」はノストラダムスの大予言に基づいた終末世界が舞台だったが、本作の世界観は2012年に世界が滅亡するというマヤ文明の終末論に着想を得ている。灯台のあかりとなっている「結晶髑髏(どくろ)」はかつてオーパーツ(謎の遺物)として知られた「水晶髑髏」から。街のあちこちに転がっている真球の「石球」は中米コスタリカのオーパーツだ。
「小さいころは小説としてのミステリーよりも、謎としてのミステリーが好きでした。ピラミッドなどの世界の七不思議にロマンを感じていた」
そんな北山さんが物理トリックに魅せられたのは、奇想に富むミステリーで知られる島田荘司さんの「斜め屋敷の犯罪」を読んでから。「ただ、島田さんと同じことをやってもだめだろうと。自分なりの色を出そうとして、トリックの周りの物語をオカルト要素で作っていこうとしたんです」
中世を舞台にしたダークファンタジーを思わせる世界観のなか、ルーサの行く先々で巫女の首無し死体が見つかる。終盤、13の密室トリックは図解とともに論理的に解きほぐされていく。だが本作は密室パズルを集めた小説ではない。すべてが明らかになった後、トリックが世界観に溶け込んだ驚天動地の結末が待っている。
「ふだんから変なことばっかり考えている気がするんですよね。これとこれがつながれば面白いと。一日中トリックを考えているのが楽しいんです」
確かに昨年刊行した短編集「神の光」は全5編すべてが建造物の消失トリックを扱った意欲作で、今年の「本格ミステリ・ベスト10」ランキング1位に輝いた。
「でもトリックを魅力的に見せるには物語の力が重要だと思っています。一番驚いてほしいところが引き立つように物語を組み立てていく。やっぱりトリックで読者に驚いてもらいたいんです」(野波健祐)=朝日新聞2026年7月29日掲載