自分の言葉は人を貶めるより自分を鼓舞するほうがいい 「さみしい夜にはペンを持て」のタコジローの変化に思う 中江有里
7月の中旬、私はインドへと旅立った。
仕事の合間を縫った2泊4日の弾丸旅行。インドはモンスーン(雨季)で、思ったよりすごしやすい。絶対日本の方が暑い。
三食カレーを食べ、トゥクトゥクに乗り、オールドデリーを観光した。
心残りは阪神タイガースの試合のこと。
気になるあまり、あえてWi-Fiをつながずにスカパープロ野球セットのアプリを開いたら、なんと観ることができた!
結果は阪神5-4DeNA。試合後、勝利のカレーを食べて、翌日には帰国した。
ところで今年の阪神タイガースは、優勝に近い位置にいるが、独走とは言い切れない。
これからも勝って浮かれては、負けてガックリするのだと思う。
あんまり余裕がないまま、シーズン終盤まで過ごしそうだ。
毎日試合を観続けていて、かつて抱いた苦い気持ちを思い出した。
◇ ◇ ◇
デビューしてまもない私は、学園が舞台のドラマに出演した。
生徒役の共演者はほぼ同世代の新人ばかり。すぐに打ち解けられた。
一方、撮影現場は厳しい空気が流れていた。
ディレクターの指導は厳しく、プロデューサーは年若い出演者にすぐ怒鳴るので、私たちは常にビクビクとしていた。
私には集中的にディレクターからキツイ言葉が飛んできた。
意地悪されているわけじゃない。私の演技がダメなのだ。
共演者たちから冷たい視線を感じる。
「お前はダメだ、ヘタだ」という声が頭を渦巻いた。
◇ ◇ ◇
古賀史健『さみしい夜にはペンを持て』は「13歳から読める小説」。
テーマは子ども向けでなく、万人向けだ。
うみのなか中学校に通うタコジローが主人公。学校で居場所がなく、自分を好きになれない。
そんなある日、公園の片隅でヤドカリおじさんと出会い、おじさんにすすめられてタコジローは「書く」ことを始める。
タコジローの悩みは、けっこうありがちだ。
たとえば学校にいると自分の能力や容姿など、他人との違いが嫌でもわかってくる。
タコジローはコンプレックスを克服するため、ペンを持ち「自分の言葉」を書き始めるのだ。
現実を見つめ、客観的に記すことで、だんだんと自分が主人公の物語が浮かんでくる。
ありのままの自分を好きになる、いうなれば中学生向けの自己啓発本。
◇ ◇ ◇
かつて私は「お前はダメだ、ヘタだ」と自分に呪いをかけていた。
クランクアップの時、ディレクターに「よく頑張ったな」と言われたのをすっかり忘れていた。
◇ ◇ ◇
無死2、3塁。「ここでヒットを打ってくれたら」
同点のままの9回裏「ここで逆転のホームランが出たらいいのに」
何度となく思い描いた物語。こんな展開を願わずにはいられない。
そしてうまくはいかない場合が多い。
そんな時にファンとしてできるのは、変わらず応援すること。
今はネット上でいくらでも不満をぶつけられる。中にはプレイへの批判を超えた、あきらかな中傷もある。選手がその言葉を目にするかもしれない。
それでストレスは解消されるのだろうか?
「自分の言葉」は人を貶めるより、自分を鼓舞したり、人を励ますほうがいい。
プレイにガッカリすることはある。負けて悔しくて、ムカついたり落ち込むこともある。
でも選手が怪我したら心配だし、選手の朗報は何でも目出度い。
きっと自分と限りなく近い存在なのだ。
だから阪神タイガースの選手は、ただ応援する。
勝った時には、とびっきりの喜びを届けてくれるのだから!