初の絵本作り「誰かと協力すればできるかも」
――『お花のこどもたち366』は、イラストレーターのくらはしれいさんが2020年2月6日から1年間、SNSで発表していたイラスト「366 花の女の子」を書籍化した作品です。美村さんはどのような経緯で参加することになったのですか。
2023年12月に、文章を担当していただけませんかと編集者さんからご依頼いただきました。実は、私は最初、文章はなくてもいいのでは?とお伝えしたんです。というのも、くらはしさんの絵があまりにもかわいいので、ビジュアルブックとして十分成立すると思ったんですよね。文章を添えるとしても、くらはしさんがご自身で書かれるか、もしくはもっと実績のある作家さんに依頼された方がいいのでは、と。
やる気はすごくあったので、すんなりお受けすることもできたんです。ただ私は本当に本が大好きなので、この本の未来を考えたときの選択として、自分が参加することがベストとは思えなくて、その思いを率直にお伝えしました。
でも、くらはしさんが私の出演したドラマを見て、この人なら言葉を大切に扱ってくれるのではと考えて私を推してくださったと聞いて、ありがたくお引き受けすることにしました。お芝居を見てそんなふうに信頼していただけたことへの衝撃と、初めてのお仕事への期待と興奮、自分にできるのかしらという不安でおしくらまんじゅうになりながらの決断でした。
―― 大の絵本好きとしても知られる美村さん。これまでにも絵本を作ってみませんかというお話があったのでは?
そういったオファーは過去に何度かありました。でも、絵本を作る方々を尊敬しているので、いやいや、今の私にはとても……と恐縮してしまって。
最近になってようやく、誰かと協力すればできるかもと思い始めていたんです。学生時代から絵を描いていたこともあって、以前は絵本を作るなら「絵と文」の絵を担当したいと考えていたのですが、執筆活動をするようになって、文章の方をやってみたいと思うようになりました。
そんなタイミングでこの本のお話をいただいたので、私にとっては満願成就という感じで。しかも『レミーさんのひきだし』(小学館)の頃から注目していた、くらはしさんとの本ですからね。これ以上ない初チャレンジとなりました。
お花の子たちのおしゃべりに耳を傾ける
―― 美村さんは、花の名前と花言葉の下にある台詞調の文章を執筆されました。
今を生きる人たちの心にそっと寄り添うような内容の短文を書いてほしい、とリクエストいただきました。お花の子どもたちはファンタジーの世界で暮らす妖精のような存在として描かれていますが、私としては、文章までファンタジーのテイストだと読者層が限られてしまうのではないかという懸念があったんですね。
ふんわりとした世界観を崩さない範囲で、現実の生活にひもづいた文章にすることで、くらはしさんの持ち味を生かしつつ読者の皆さんにつなげていく、その回路を作るのが私の仕事だということは、当初から考えていました。
台詞調以外にも、子どもたちの様子を俯瞰的に捉えた散文や、五七五七七のような一定のリズムの文章も提案したのですが、くらはしさんのご希望から、子どもたちのおしゃべりのような文章にすることになりました。となると、その子たちが本当に話しているような内容にしないと嘘っぽくなってしまいます。そこで、まずは一人ひとりのプロフィールを作るところからスタートしました。
――『お花のこどもたち366』と同時発売の『色のこどもたち366』(アリス館)、あわせて732人分のプロフィールを作ったのですね。
はい、732人分。なかなかの数ですよね(笑)。
表面上のかわいさを客観的になぞっているだけでは、なんとか台詞を作ったとしても、きっとすごく薄口なものになってしまいます。子どもたち一人ひとりに個性を持たせて、生き生きとしたキャラクターにしていくには、過去と今と未来をちゃんと作る必要があると思いました。
それで、ちょっと大変かもしれないけれど、俳優業でいうところの役作りみたいな感覚で、その子がこれまでどう生きてきたか、家族構成や友達関係、好きな食べ物、趣味なども含めて掘り下げていくことにしたんです。その上で、1対1でインタビューするように聞き取っていきました。
―― それぞれの子のキャラクターは、表情やポーズ、服装、そして花言葉などの要素をヒントに作り上げていったのだと思うのですが、意外と横向きや後ろ向きの子、目を閉じている子が多いですね。
そうなんです。シャイな子がわりと多いので、聞き出すのに時間がかかりました。制限時間を作って無理やりおしゃべりを引き出すのも違うなと思ったので、今は話してくれなそうだなと思ったらその子は飛ばして、別の子と話をして……という感じで進めていきました。4カ月、何もしゃべってくれない子もいましたね(笑)。
くらはしさんご自身もどちらかというとシャイな方なのかなと思うのですが、とても心が豊かなクリエイターさんで、普段表に出さない部分が作品の中でぶわーっと広がっているように感じます。子どもたちもそれぞれいろんな思いを秘めているように感じたので、インタビューするのはとても楽しかったです。
この子たちにインタビューするにあたって、決めていたことがあるんです。私自身が疲れていたり、悩んでいたりするときは、この子たちと対面しないこと。私はわりとご機嫌な日が多いタイプではあるんですけど、それでも仕事やプライベートで何かと立て込んでいるときは着手せず、のんびり公園にでも散歩に行こうかな、みたいな余裕のあるときに向き合うようにしていました。時間はかかりましたが、そのぶん一人ひとりの子と仲良くなれたように感じています。
十人十色の個性を台詞に込めて
―― くらはしさんの絵に美村さんの台詞が添えられることによって、1ページごとにストーリーが立ち上がっていくように感じました。たとえば164ページの、淡いピンクのスカート姿で横向きに佇むエビネちゃん。台詞を読むと、エビネちゃんが周りの友達から本来の自分とは少し違うイメージで受け止められていて、それをもどかしく感じていることが伝わってきます。
このピンクのスカートのせいで
まぜてもらえないのかしら。
かけっこも木のぼりも好きなんだけどなぁ。『お花のこどもたち366』より
エビネちゃんは、子ども時代の私がちょっと入っています。私は顔立ちや雰囲気のせいか女の子らしく見られることが多かったので、虫をわしづかみにしたりすると驚かれてしまうことがあって。いまだに虫を捕まえるのは好きですし、木登りだって体が重くなければやりたいと思っているんですけどね(笑)。
自分が認識している自分と、周りの人が扱ってくれる自分とのギャップにショックを受けたり、違うのになぁとさみしさを感じたりという経験は、誰しもあると思うんですよね。このくらいの子どもって、ちょうどアイデンティティが確立されていく時期なのかなと思ったので、そんなことも意識して生まれた台詞です。
―― ただただ無邪気な子、天真爛漫に歌っている子もいれば、大人もハッとするような示唆に富んだことを言う子もいて、十人十色です。
せっかくこんなにかわいい子たちを預けていただいたので、できるだけ多種多様な個性を乗せていけたらと意識して臨みました。読んでいてふわっと心が軽くなるような文章にしよう、というのはこの本を作る上でのポリシーとしてあったので、その中でのバリエーションではあるんですけどね。
たとえば、何かに挑んでいくポジティブさもあれば、一人でほっとひと息つくことでポジティブになれる子もいる。元気いっぱいでやる気に満ちた状態だけがポジティブってわけでもないんですよね。ポジティブの意味をもっと広く捉えることで、ほっとしてもらえることもあるのかなと思いました。
ぱっと開いて、占いのような楽しみ方も
――『お花のこどもたち366』をどんなふうに楽しんでもらいたいですか。
くらはしさんの絵がとにかくかわいいので、まずは絵をまんべんなく見ていただきたいですね。その次に、自分の誕生日や、家族、友達の誕生日などで引いてもらって、誕生花や花言葉を楽しんでいただく。文章はそのあとで、あれ、ここに文章があったんだ!くらいで構いません(笑)。一度に全部楽しもうとすると濃度が高すぎるので、少しずつ味わってもらえたらと。
思いついたときにぱっと開いて、花言葉や一言を見て気分を上げたり、今日はこんな日になったらいいなとイメージしたりと、フォーチュン本のような感じでも楽しんでいただけるかと思います。
―― 同時発売の『色のこどもたち366』についてもご紹介ください。
お花か色か、どちらか1冊というとお花を選ぶ方が多いかもしれませんが、私の推しは『色のこどもたち366』です。自分で台詞を書いているのに「共感」というのも変かもしれませんが、色の子たちの方がシンパシーを感じる子が多かったんですよね。動きがあるからか、普段どんなふうに活動しているのか想像がしやすかったように思います。
色の子たちは、どちらかというと趣味とか、自分の好きなことを突き詰めたような、ややマニアックなことを言っている子が多いのですが、そういう性質は私に似ているというか……私のそういう部分を絞って書いたところもあるので、おしゃべりを聞くのがとても楽しくて。制作時間もお花の子たちの半分以下で、スムーズに聞き取りができました。
サクラちゃんとオークくんのように、お花の子と色の子が仲良しだったり、本を超えて話しかけていたりと、お花と色でリンクしている部分もあるので、2冊揃えた方はぜひそんなところにも注目してもらえたらうれしいです。
最後にひとつだけ、秘密を教えますね。裸足の子たちの好きな食べ物は、アイスクリームやシャーベットにしてあるんですよ(笑)。そんな裏設定がいくつもありまして、この子たちと時間をかけてたくさん遊んで、本当に楽しい時間でした。