ISBN: 9784622098553
発売⽇: 2026/06/18
サイズ: 19.4×2.1cm/344p
「このありふれた星屑は」 [著]アラン・タウンゼンド
書評者にあるまじきお願いだ。どうか予備知識なしで、できればカバーや帯の紹介文も見ずにこの本を読んでもらえないだろうか。中身を語らず書評する。今回はそんな矛盾と向き合いながら、思いを伝えていきたい。
詩的なタイトルどおりというべきか。格調高いプロローグでつまずき、私は数日の足止めを喰(く)らっていた。だが、ひとたび壮大かつ予想外の始まりに心を奪われると、あっという間に、命、科学、宗教、そして愛が複雑に交錯する不思議な世界へと導かれていった。
気づくと三回も読んでいた。一度目は心をえぐられるようなドラマに引きずられるままに。二度目は、自然の大きな循環のなかを生きる命の永続性に思いをはせながら。三度目は、科学が支配的な現代社会において、宗教の持つ本質的な価値に触れたくて。
著者は生物学者。運不運に人生を左右された人でもある。決して科学を称揚しない。感傷の悲話で終わらせもしない。自らの運命を、生命の連鎖のなかに、科学者、そして家族の一員としての己の人生のなかに刻み込みながら、優しく物語をつづっていく。
「科学絶対主義者」だった彼は、あるできごとをきっかけに、科学が正解を示す道具ではないことを知る。限界を受け止め、真実だと信じてきたものを疑い、終わりのない問いを引き取ることに科学の本質を見いだす。
日々の生活と家族との対話がもたらした彼の転換は、科学絶対主義と対極にある宗教的知性につながっていく。問いに終わりがあり、疑いの余地のない世界には、宗教も、科学も、居場所はない。
私は学者であり、著者と同じ大学で研究をした経験もある。目を閉じれば、本書の風景のあちこちが脳裏に浮かぶ。立場と場を共有する偏った評者であることを自覚した上で、最後にもう一度、お願いしたい。真っ白な気持ちで読んでほしい。本書はいくつもの物語が美しい層をなしている。
◇
Alan Townsend コロラド大ボルダー校の研究所長やモンタナ大W・A・フランケ森林保全学部長など歴任。生物地球化学。
◇
梅田智世訳