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矢樹純さん「刑事総務課は眠らない」 推理は夢の中で?「驚き味わって」 

矢樹純さん

 日本推理作家協会賞を受けた「夫の骨」など、切れ味鋭い短編ミステリーで知られる矢樹純さんが初めて手がけた警察小説「刑事総務課は眠らない」(文芸春秋)が刊行された。不眠症の刑事とショートスリーパーの部下という異色のバディが難事件に挑む。

 神奈川県警捜査一課の刑事、月代杏果(つきしろきょうか)は2年前の未解決事件で不眠症になり、勤務中に失態を演じて異動になる。着任した刑事総務課の部下、根津梗士郎(ねづきょうしろう)もまた睡眠に問題を抱えていた。1日に1時間も寝ないのに働き続ける超ショートスリーパーだったのだ。

 眠りがテーマの作品かと思いきや、根津の造形は意外なところから。初心者として参加した推理作家協会の将棋同好会の席で会った棋士の先崎学九段に、信じられない手をひねり出す思考法について聞いたところ、「記号とか信号みたいなものが浮かぶ」との答えが返ってきた。

 「全く理解不能だったのですが、そんなことが普通の人に起きるのはどんな時かと考えて。眠っている間に夢のなかでギュッと記憶が整理されて、真相がパッと浮かぶ。そんな探偵役を思いついたんです」

 根津は過去に起きた事件の膨大な捜査記録を読み込み、気を失うように眠る。目を覚ましたとたん、記録を〈正しく埋めたくなる〉からと不思議なことを言い出す。第1章、老老介護の末の無理心中と見られた事件では〈遺体発見時にエアコンがついてたのはどの部屋か教えろ〉と。そんなささいな指摘が思わぬ真相へとつながっていく。

 ただ、本作は単なるバディものの事件簿ではない。日々解き明かす現在の事件は、やがて月代が刑事を志すきっかけとなった30年前の誘拐事件へとつながっていく。

 2002年から、作画担当の実妹とのペンネーム「加藤山羊(やぎ)」で漫画原作者として活動していた。ホラーとミステリーが融合した作風で知られる三津田信三さんの作品に触発されて小説を書き始めた。「このミステリーがすごい!」大賞への応募作が編集部推薦作(隠し玉)に選ばれ、12年にデビューした。

 「どんでん返しがすごく好きで。緻密(ちみつ)な推理が積み重なっていくよりも、え?って感じになりたい。読者にそんな驚きを味わってほしいと思ってます」

 先月には「怖い客」(PHP文芸文庫)も刊行。カスハラをテーマに、洋菓子店や書店などを訪れた不審な客とスタッフをめぐり、どんでん返しが炸裂(さくれつ)する5編が並んでいる。(野波健祐)=朝日新聞2026年8月5日掲載