お笑いコンビ「ラランド」ニシダさんの大切な本 他者を理解する 最高のエンタメ
お笑いコンビ「ラランド」のツッコミ担当、ニシダさん。言わずと知れた売れっ子芸人だが、読書家で作家の顔も持つ。でも出した小説集は自分で「つまらないと思っちゃう」。読書は最高のエンタメ、執筆は自己否定の連続だという彼がいまも読み返す2冊とは。
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「瞬時にいじりを笑いに変換するニシダの受け身がうますぎる♥」
「やっぱニシダ凄(すご)いよ」
登録者330万人超の人気YouTubeチャンネル「佐久間宣行のNOBROCK TV」で、ニシダさんの登場回は称賛のコメントにあふれている。出演したバラエティー番組「アメトーーク!」では年間100冊を読破する読書家としての一面を見せ、小説執筆のきっかけとなった。
「生まれつき、一人でぐっと考え込むのが好き。友達と遊んだりするよりも、本を読んでいる方が気質に合っていました」
読書遍歴は、小学生のころに読んだ「かいけつゾロリ」シリーズに始まる。小学2年生で「ハリー・ポッター」シリーズにはまった。ゲームも面白かったけれど、集中して考える感覚は読書でしか味わえなかった、という。
中学生で太宰治に出合う。教科書に載っていた「走れメロス」をきっかけに、全集を読破するほどのめり込んだ。自殺した「暗い」印象があった太宰の、その自意識過剰さすら自嘲する独特のユーモアに感化された。「サービス精神の人。暗い部分、悲しい部分ももちろん書いているけれど、自分のダメな部分も含めて読者に笑ってもらおうとしている」
それを鮮烈に感じたのが短編「畜犬談」だ。犬が大嫌いな太宰自身とおぼしき主人公が、とある野良犬になつかれて閉口する。人間の身勝手さがコミカルに描かれていた。「自分の業みたいなものを小説の中で面白く肯定している。太宰の印象が変わりました」
もう一冊挙げたのは、小川洋子「ことり」。単行本が出たときに読み、その後風呂でも読み、文庫版をポケットに入れて持ち歩き、何冊もぼろぼろに。いま手元にあるのは5冊目だ。「文章がすべて美しい。言葉にならないです」
主人公は世間から隠れるように生き、鳥たちの声を聴き続ける「小鳥の小父(おじ)さん」。いちばん好きなのが、その結末だ。「人間との距離の詰め方がわからず、周りからも理解されない。でも最後、大好きだった鳥との関係の中で、想定しうるいちばん幸せな亡くなり方をする。毎回泣いてしまう」
人間へのまなざしは、読書を通じて深まっていった。実生活では、高校の友人は、誰ひとり連絡先を知らない。大学の友人とも、退学した後は一度も会っていない。「人間関係にあまり頓着せず生きてきた」と話す。
本に没頭し、考え続けることが、他者と向き合う営為にもなっていた。「小説は、基本的に他者がいないと始まらない。主人公や作者の目線を借りて他者を理解しようとする気持ちが、読書には絶対に必要な気がします」
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「一番のエンタメ」という読書。それに引き換え、執筆は「自己否定の連続」だ。繰り返し推敲(すいこう)するうちに、「何を書いても面白くないな、おれ」という気持ちになってしまう。
紡ぐのは、世界の中心からどこかずれたところにいる人々の物語。キーボードのタイピングが苦手で、原稿は手書きを貫く。原稿用紙の途中の2枚がどうしても見つからず、うろ覚えで書き直して前後をつないだこともある。完成が締め切り当日になり、自分で自転車を飛ばして出版社に原稿を持っていき、手渡したこともある。
「ウケちゃえば勝ち」で、華々しく活躍できるお笑いとは違い、すぐに反響があるわけでもない。年間100冊を読むのがひそかな誇りだったが、執筆に時間を取られて、最近は60~70冊に減ってきたのが正直なところだという。
それでも毎日のように書き続ける。なぜなのか。「書くことはぐっと集中して考え込む、最たるものだから」。人間へのまなざしは深まるばかりだ。
(興野優平)
「畜犬談」が収録されている。犬を嫌い、その牙におびえるあまり、犬にはつい下手に出てしまう主人公。ある日、真っ黒の小犬になつかれ、家に居座られてしまう。薬を盛って死なせようとするが……。著者自身「滑稽物語」と評した。
「小鳥の小父さん」が亡くなった。近所の幼稚園で、鳥小屋の清掃を長年続けた彼には、かつて兄がいた。鳥のさえずりを理解する兄が話す言語は弟にしかわからなかった。2人が暮らした歳月と、その後の「小父さん」の人生を静謐(せいひつ)な筆致でたどる。