「モンゴル抑留」書評 長く顧みられなかった理由とは
ISBN: 9784040825663
発売⽇: 2026/06/10
サイズ: 11.1×17.4cm/336p
「モンゴル抑留」 [著]井手裕彦
本書の著者の仕事について、いつか紹介しなければと思っていた。長く顧みられなかったモンゴル抑留の実態を追う井手裕彦。彼の活動を知ったのは2023年に刊行された『命の嘆願書』によってである。
この本で井手は、同胞の命の保証を求めて当時のモンゴル政府を相手に折衝を行った3人の抑留者を描き、さらに日本政府も入手していなかったモンゴル抑留の膨大な記録を公開した。重要きわまる書であるが、1300ページ近い大著で多くの人の手に渡るのは難しい。そこへ今回、読みやすい新書の形で本書が世に出たのだ。
モンゴル抑留とはいったい何なのか。
1945年8月10日、ソ連の要請を受けて対日参戦に踏み切ったモンゴルは、満州侵攻に貢献した見返りとして、日本人捕虜の一部を提供された。約1万4千人がモンゴル国内で強制労働に従事させられ、うち約1700人が死亡している。
ソ連地域と比べてモンゴルの抑留者は鉄道員など民間人が多く、また死亡率も高かった。だが日本政府による戦後処理はソ連との交渉が中心で、調査も後回しにされた。
民間人が多かったのはなぜか。戦後、国がモンゴルに抑留者の調査を求めなかった理由は何か。そもそもモンゴルはなぜ犠牲を払って対日参戦したのか――。ロシアと中国という大国にはさまれたモンゴルの苦難の歴史をひもときつつ、行き届いた平明な文章で著者は語っていく。気がつくと手の中の本が付箋(ふせん)とメモだらけになっていた。
身元が特定されていないモンゴル抑留の死者は約200人に及ぶという。「消息不明」とされ、どこでどう亡くなったかさえ故国の家族に伝えてもらえなかった死者たちがいるのだ。
著者はモンゴルの公文書館に眠っていた死亡記録を発掘し、遺族を探して無償で届ける活動を続けている。死者に対するこの責任感は、歴史への誠実さにほかならない。
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いで・ひろひこ 1955年生まれ。ジャーナリスト。元読売新聞編集委員。著書『命の嘆願書』でシベリア抑留記録・文化賞。