「実録! 東映三角マーク宣伝部」書評 冷笑と美化の境目にある「昭和」
ISBN: 9784845644452
発売⽇: 2026/06/19
サイズ: 12.8×3cm/352p
「実録! 東映三角マーク宣伝部」 [著]福永邦昭 [構成]尾形敏朗
思えば初めて見た映画は「東映まんがまつり」だった。青春時代は角川映画に熱中し、「二百三高地」「大日本帝国」「海ゆかば」の戦史三部作も繰り返しみた。今でも東映チャンネルの大ファン。そんな私が素通りできない本と出会った。
本書は、東映の名物宣伝マン福永邦昭の回顧録だ。映画評論家の尾形敏朗の問いに応じる形で彼の営業人生が語られる。福永が入社した1963年は、東映が時代劇から任俠(にんきょう)映画へと舵(かじ)を切った時期。不良性感度――欲望や反抗心を娯楽に変える感覚――が会社を勢いづかせていた時代に鍛えられた福永は、数々のヒットを世に送りだす。
それにしても痛快な本だ。宣伝部はただの裏方じゃない。俳優の機嫌を読み、監督と製作者の思惑をつなぎ、興行主の腹を探りつつ、誰もが「見たい映画」を力ずくで作りだす。理屈より度胸の世界。友情、嫉妬、愛情、怒りがぶつかりあい、撮影の前と後にドラマがある。まるで群像劇だ。
だが、痛快さだけでは真価がみえない。私を襲ったのは「昭和性」への強烈な郷愁だ。リアルなヤクザ社会を描くべく宣伝マンが組長に話をつけに行く。ほんの数秒の映像のために俳優やスタッフが文字通りに命をかける。興奮した子どもたちが館内を走り回る。今ならコンプラが問われ、冷たい眼差(まなざ)しを向けられる類の小話が、次から次へとあらわれる。
ふと、幼稚園の先生たちが僕の楽器の発表会に来てくれたことを思いだす。今ではもう望みにくい、遠い日の記憶。社会には人のはみ出しを受け止める〈余白〉があった。
ただし郷愁は無垢(むく)ではない。古きよき国民国家へのノスタルジーは今、右派ポピュリズムや排外主義に接続しつつある。だからこそ、若い人にも本書を読んでほしい。私たちは何かを手にし、何かを手放してきた。冷笑と美化の境目にある昭和という時代。光と影の手触りを、その熱気とともに感じとってほしい。
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ふくなが・くにあき 1940年生まれ。東映で長年、宣伝プロデュースを担当▽おがた・としろう 1955年生まれ。映画評論家。