ISBN: 9784163921303
発売⽇: 2026/07/23
サイズ: 13.5×19.4cm/328p
「願うのは私に禁じられたこと」 [著]梁貴子
語り手となるのは、27歳の裕福な女性カン・ミンジュ。女性相手の人生相談スタッフを務めつつ、愚直で忠実な弟分のナムギを使い、彼女はある計画を練っている。人気俳優ペク・スンハの誘拐である。
ペク・スンハは愛妻家として知られ、女性からの好感度が高い俳優である。そんなスターが体現する、男性に関する幻想を打ち砕こうと、彼女は計画を実行し、ソウルのマンションの一室に彼を監禁する。人気俳優の失踪をきっかけとして、イメージを裏切るようなスキャンダルが出てくるはずだ……。父親が母親に振るう家庭内暴力を見て育った彼女は、男性についての真実を白日のもとにさらそうとする。
冒頭から繰り返し、カン・ミンジュは他者への共感を封じて距離を崩さない、冷徹で理性的なみずからの姿を強調する。支配するか服従するか、勝つか負けるか、彼女にとって人生とはどちらかでしかない。
そんな主人公に、読者が抱く感覚のうち、どれくらいがジェンダー的な偏見に由来するものなのか。主人公が男性であれば、異なる評価がされるのではないか。
さらに、スター俳優を監禁することが、家父長的な結婚制度において社会から切り離される女性の立場の裏返しなのだとしたら、そのような日常はなぜ自明視されているのか。なにげない描写や会話のいたるところに無数の問いが仕掛けられ、読者は絶えず自らの価値観を問い直すことを求められる。安易に読み飛ばすことを禁じる緊迫感が小説全体を貫いている。
すべてを目的と手段とみなす彼女は、監禁したペク・スンハと過ごしていくなかで、それとは異なる自分の姿を発見するのか。その問いが明らかにするのは、人間についての真実なのか、読者が女性に期待する役割なのか。サスペンスを追いつつ、カン・ミンジュにどんな視線を向けようと、それはまっすぐ、読者に跳ね返ってくる。
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ヤン・グィジャ 1955年生まれ。韓国の小説家。78年デビュー。著書に『ウォンミドンの人々』『矛盾』など。
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小山内園子訳