1. HOME
  2. 売れてる本
  3. ニュートン編集部・編「音楽と科学」 幅広い内容凝縮させお得感

ニュートン編集部・編「音楽と科学」 幅広い内容凝縮させお得感

 私たちはいかに音や音楽を知覚しているのか――耳や音の仕組み、楽器や機器の構造と変遷、聴いた音が私たちにもたらすさまざまな感覚のメカニズム。さらには自動作曲、配信、ノイズキャンセリングといった音楽をめぐるさまざまなデジタル技術――本書はピタゴラスから今日まで連綿と続く「音(楽)と数(学)の関係」を幅広く網羅しながら、その実態を科学的に解き明かそうとする。

 専門的だが、図例やカラー写真を豊富に用いて根本から必要十分な細部まで平易に説明されるのでわかりやすい。なぜストラディバリウスは最高峰のバイオリンとされるのか、木製ではないのに木管楽器と呼ばれる理由などの、随所に挟まれるトピックも興味深い。

 かくも充実した内容が約140頁(ページ)に収まっているのは驚異的でお得感もある。通常、独立した書籍となる各章の内容が一冊に凝縮されたことで、各事項の関連性を看取させる点がよい。

 一方で、読者には真偽を確かめようのないことが、数式や図を併用した明快な説明により、正解かのように受容されかねない懸念もある。たとえば、和音の「協和と不協和」を「心地よい音楽と不快になる音」という非対称的な対比に、また、個人の感覚や聴く環境の影響も大きい音楽の「快・不快」を「緊張と弛緩(しかん)」にそれぞれ二元論的に集約させる論法は正確性に欠け、音楽の多様な理解を狭めてしまう。

 いかに聴くかは結局主観的にならざるを得ない部分があり、全てを科学的に論じるのは不可能だ。科学的アプローチで解を得たとて、それに倣えば感動する音楽を生み出せるわけではない。それは単純化された理解の限界と、言語を超えた音楽の力の本質を逆説的に示唆するが、だからこそ解明したい読者の探究心にも訴えるのだろう。=朝日新聞2026年10月10日掲載

    ◇

 ニュートンプレス・1980円。25年11月刊、8刷5万部。担当編集者は「数学・物理、音楽のどちらの専門でもない音楽好き向けの科学書がほとんどなかったからではないか。書店だけでなく楽器店での販売も増えている」と語る。