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岡野原大輔「ヒトとAI」 何ができて何ができないか

 書名の「ヒト」が片仮名だ。本文には「人」「人間」「人類」という表記が出てくる。著者はこれらを使い分けているようだ。

 片仮名の「ヒト」は生物としてのホモ・サピエンスである。この本は、私たちの生物的側面である知能や認知をAIと比較して、AIには何ができて何ができないか、人でなければ引き受けられない社会的要素は何かを考察するものだ。

 で、この考察の切れ味たるや、おそるべし。次々と繰り出される分析は鋭く、爽快だ。ときに鋭すぎて、もう少し余韻があってもと思うことすらあるぐらい。

 著者の強みはAIの技術について熟知しているのはもちろん、ヒトの思考・認知についても精通しているところにある。さらに、ヒトとAIを比較しつつ共に貫く鋭い眼力と腕力を持っている。ヒトとAI、それぞれに詳しい研究者は多々あれど、両者を同じ皿に載せて一刀両断できる豪腕の持主(もちぬし)は、世界を見わたしてもあまりいない。

 本書では、AIが持っていないヒトの独自性として、当事者性や感情などが強調される。このあたり、AIの急速な進化で息も絶え絶えだった私たちの威厳が取り戻されていく心持ちがして、うれしくなる。

 だが、最終第Ⅲ部で著者が提言するAI時代にあるべき社会の姿は、厳しいものだ。仕事や教育や制度の再設計が必要という指摘はその通りだとも思わされるが、提案されているような土台から根こそぎ変える根本的再設計が、果たして私たちにできるのだろうか。

 漢字の「人」は社会や文化の中での私たちであり、それが集合して「人間」になる。本書は文化も社会も考察しているが、土台はあくまでも生物としての「ヒト」にある。いずれ続編として「人/人間とAI」が書かれるのだろうか。楽しみに待ちたい。=朝日新聞2026年10月31日掲載

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 岩波新書・1034円。26年7月刊、7刷5万5千部。著者は日本でAI(人工知能)を開発するプリファードネットワークス社長。「AIで社会がどう変わるか全体像を知りたい人に広く読まれている」と担当者。