ISBN: 9784309039169
発売⽇: 2024/10/03
サイズ: 13.6×19.5cm/216p
「ナチュラルボーンチキン」 [著]金原ひとみ
主人公は兼松書房・労務課の浜野文乃。「趣味もなければ特技もなく」「四十五にして見事に何もない」彼女にとって、メンター(助言者)のような平木直理(兼松書房・編集部の二十代女子)が、とにかく最&高!
スケボーで転んで捻挫し、診断書付きの二週間在宅勤務を申請したうえ、さらなる在宅勤務を申請してきた平木の様子を見に行くように、部長から頼まれた浜野。そのまま直帰でいいよ、という言葉に心が動き、平木の家を訪れたのが運の尽き、ではなくて、「ルーティンを愛しルーティンを志し続ける」浜野の人生のターニングポイントになる。
自宅へあげることに抵抗を見せた平木のガードを手土産で攻略し、部屋に踏み込んだ浜野が見つけたのは、ホストクラブの領収書。でも、平木は動じない。彼女の言い分は、こうだ。
「ホスクラは会社とか病院の千倍楽しいところなんですよ? むしろ、会社に行けなくてホスクラに行けるのは当然じゃないですか?」
確かに、と納得しそうになりつつも、その道理が通れば社員誰一人会社に来なくなってしまう、と反論する浜野には、
「え、社員が会社に来なくなったら何が困るんですか?(略)ちなみに副編の沼岡さんはほぼ毎日十二時間以上会社にいますけど、彼の仕事量、私だったら四時間でこなせますよ。在宅定時で人並み以上の仕事量をこなせる私は、会社にとって非常に有益な存在です」
ね、平木、いいでしょ? この平木との出会いで、浜野が少しずつ変わっていく様がすごく、すごくいいのだ。彼女がおそるおそる始めるバンドマンとのお付き合い(もちろん、平木つながり)も、愛(いと)おしすぎる。
本書の帯にある、作者の金原さんの「この物語は、中年版『君たちはどう生きるか』です」が、本書の全てをあらわしている。迷える中年よ、読むべし。あ、中年じゃなくても、読むべし!
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かねはら・ひとみ 1983年生まれ。『蛇にピアス』で芥川賞。『アンソーシャル ディスタンス』で谷崎潤一郎賞。