一昔前は評論の不在を指摘されることも多かったライトノベルだが、近年、アカデミックな研究も充実してきた。山中智省著『ライトノベル史入門「ドラゴンマガジン」創刊物語 狼煙(のろし)を上げた先駆者たち』もそんな一冊だ。
雑誌「ドラゴンマガジン」は、30年近い歴史を持つライトノベル・レーベル、ファンタジア文庫の母体として1988年に富士見書房から創刊された。もちろんこの時点ではライトノベルという名前はまだない。本書は「ドラマガ」誕生の歴史を通じて、ライトノベルはいかに生まれたかに迫ったものと言える。
その構成は創刊に携わった編集者・作家・イラストレーターらへのインタビューと、山中の論文の2部からなる。のちの人気企画が、ある作家の原稿が足りなかったせいで生まれたという裏話など、黎明(れいめい)期の試行錯誤はいずれも興味深いが、個人的には、先行する若者向け文庫、小説誌との比較を特に面白く読んだ。
80年代には若い世代を活字に呼び込むためアニメ、マンガ的なイラストを採用する試みはすでに存在し、一例に朝日ソノラマのソノラマ文庫と小説誌「獅子王」などがあった。先行者と「ドラマガ」の違いは何か。本書によれば、先行者は文芸誌の価値観を受け継いでおり、小説、特に作家が主体だった。一方「ドラマガ」にその伝統はなく、様々なメディアを取り扱うのと同時に、中心は作品やキャラクターにあった。そのことで同誌はひとつの小説をマンガ、アニメなど他メディアに発展・接続させる「メディアミックスのための戦略誌」という新たな形を獲得していった、という。その意味で本書はライトノベル史であると同時にメディアミックスの歴史を描いたものともいえる。
ぜひ大塚英志著『日本がバカだから戦争に負けた 角川書店と教養の運命』(星海社新書)と併読されたい。タイトルは過激だが、角川源義・春樹・歴彦・川上量生という4代の社長を通じ、メディアミックス企業としての角川書店(現・KADOKAWA)を論じたものだ。片やそのトップ、片やその子会社の新雑誌という最前線、二つの視点から、「メディアミックス戦略」の歴史を立体的にたどれるはずだ。=朝日新聞2018年3月25日掲載
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