1. HOME
  2. 書評
  3. 石川宗生「半分世界」書評 みたこともない笑いの果て

石川宗生「半分世界」書評 みたこともない笑いの果て

評者: 円城塔 / 朝⽇新聞掲載:2018年03月18日
半分世界 (創元日本SF叢書) 著者:石川 宗生 出版社:東京創元社 ジャンル:小説・文学

ISBN: 9784488018252
発売⽇: 2018/01/21
サイズ: 20cm/307p

半分世界 [著]石川宗生

 筆力に驚かされる。
 デビュー作とは思えない整った文章や、思い込みを突いてくる比喩。それも印象的なのだが、なによりもバランス感覚である。
 たとえば、町がたくさんの同一人物たちに埋め尽くされる「吉田同名」。あるいは縦割りにされて中の見える家に暮らす一家を描く表題作。
 会話の中でふと浮かんだようなホラ話といった主題であるが、作者はそれを生真面目に淡々と展開していく。純粋な嘘(うそ)からはじめる話は難しい。馬鹿馬鹿しさの程度をこえるとすぐにそっぽを向かれてしまう。それを大通りを歩くように悠然とすすめる。
 一般に、ホラ話はホラ話として幕を降ろす。この短編集で特徴的なのは、ホラ話たちは成長を続けるうちに自らの殻を食い破り、その向こう側へ突き抜けてしまうところである。
 下手な教訓や、お涙頂戴(ちょうだい)ではなくて、そこには、これまでみたこともなかった笑いの果ての風景が広がっている。