ものするひと(1) [作]オカヤイヅミ
雑誌「文像」の新人賞を受賞しデビュー。1DKのアパートに一人暮らしで、警備のアルバイトをしながら小説を書く。体が大きくどこか茫洋(ぼうよう)とした雰囲気。「人に対して全然執着とか依存とかなさそうにしてて人懐っこい」というのが文壇バーのママによる彼の作品および人物評だ。
そんな30歳の作家の日常をゆるやかに描く。言葉について世界について、彼は常に考えている。そのとりとめのない思考の流れは、まるで本物の作家の頭の中を覗(のぞ)いているかのよう。仲間内での突発的な言葉遊びも興味深く、なるほど作家になる人間とはこういうものかと感心する。
しかし、彼らの会話やモノローグはすべて著者の脳内から出てきたもの。そこには当然「ものするひと」としての著者の思考が反映されているはずだ。〈郊外の夜に光る/謎の言葉みたいな/文章が書きたい〉と主人公は言う。それをマンガという形式で表現したのが本作ではないか。
絵も言葉も磨き抜かれ、細部まで気が利いている。作中で紹介される小説『マトリョーシカ』も面白そう。「文学的」と評されるマンガは多々あるが、本作は「文学がいかにして生まれるか」を描いている点で新しく刺激的だ。=朝日新聞2018年4月7日掲載