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西原梨花「文ゆかば」 戦時下生きる少女のたくましさ

『文ゆかば』(1) 西原梨花〈著〉 小学館 792円

 各種の障害を持つ人にとって、今の日本は決して暮らしやすい社会ではないだろう。単に不便なだけでなく誤解や偏見も根強い。ましてや戦時中となれば、その苦労はいかばかりか。

 本作の主人公は生まれつき耳が聞こえない少女・文(ふみ)。空襲で家と家族を失い親戚の家を転々としたのち、神戸のとある家に家事手伝いとして居候することになる。時に昭和19年春。ラジオからはインパール進撃の報が流れるが配給物資は日に日に乏しくなる。

  そんな状況下、一見ドジでひ弱ながら芯は強くたくましい文の奮闘ぶりを生き生きと描く。頭の中にあふれる言葉を筆談で伝えようとするも追いつかないもどかしさ。たまらず繰り出した手話を居候先の次男・功雄(あつお)はポカンと見つめるだけ。それでも文と日常的に接することで「周りの見え方が少し変わった気がする…」と感じ、彼女の気持ちをもっと知るべく、手話を学ぼうとする彼の姿勢には頭が下がる。

  功雄と父(母は病死、兄は出征中)が超いい人で、文が働く工場にも悪人はいない。しかし、今後の戦況悪化により苦難が降りかかるのは必至。デリケートで難しい題材に挑んだ作者と編集部に敬意を表しつつ、みんなが無事終戦を迎えることを祈りたい。 =朝日新聞2026年3月7日掲載