我是白「遊戯[完全版]」 心に届く具体性を脱色した描写
一般的な「マンガ」のイメージからは、かなりかけ離れた作品だ。おどろくほどシンプルな線画で、抽象的な描写が、短いと6コマ、長くても20コマほど並ぶ、ミニマル・コミックともいうべき短編集だ。ちょっとアート的ともいえるスタイルで、正直あまり期待せずに読み始めた。形ばかりにとらわれて空回りが多いのだ、こういう作品は。と思っていたら、予想はいい意味で大きく裏切られた。
収められた94本にはどれも明確な物語はない。日常のひとこま的でもあり、不条理的でもあり、幻想的でもある。読み終えるたびに余韻にひたったり、展開の飛躍に置いてきぼりを食ってぽかんとしたり。これは単なるイメージの遊戯なのか、それとも秘められたメッセージがあるのか。作品はそれを決めつけることなく、すべてを読者に委ねる。おそらく読む人の境遇や生きざま次第で、ちがう物語が読み込まれることだろう。自分が呼吸している世の中の空気によっては、社会や政治状況の寓意(ぐうい)も響いてくるかもしれない。
中国からやってきたこの作品は、具体性を脱色した描写だからこそ、多くの人の心に届く力を持っている。いつも机の片隅に置いて、少しずつ読み進めたくなる本だ。=朝日新聞2026年3月7日掲載