ルポルタージュ(1) [作]売野機子
極端な合理化が進んだ先にはこんな未来が待っているのだろうか? 本作の舞台はないとはいえない近未来だ。
2033年、世間では面倒な恋愛をすっ飛ばし、マッチングシステムで条件が合う相手と結婚するのが主流になっていた。いずれは少子化にも歯止めが? その矢先、時代の象徴であるシェアハウス「非・恋愛コミューン」でテロが起きる。新聞記者の聖(ひじり)と理茗(りめい)はテロ犠牲者のルポを任され、周辺取材を始めるが……。
注目したいのは聖の表情だ。印象的なカバーのとおり、聖は常に感情の表出を抑えている。しかし、ある出会いを機に人間くささが滲(にじ)むようになり、ついには感情を迸(ほとばし)らせるのだ。まるで熱い血液が一瞬で体中を駆け巡るようなその描写にグッときた。
一方の理茗は聖の一連のふるまいに疑問を持っている。なぜ好意をもってくれている相手に気安く応えないのか。その理由が記者の生命線といえる部分に触れてくるくだりもたまらない。まるで、著者自身がルポルタージュするように、あらゆる恋愛の作用が時間の経過を省いた詩的な表現で紡がれていく。しばしば恋愛は幻想だといわれるが、本作を読むとそれは必要な幻想なのだと思えてくる。=朝日新聞2017年7月16日掲載