荒くれ漁師をたばねる力―ド素人だった24歳の専業主婦が業界に革命を起こした話 [著]坪内知佳
大学中退、結婚、離婚を経て幼子を抱えた24歳のシングルマザーがある日、山口県萩市大島の漁師たちと出会う。農林漁業者が食品加工・流通販売も行う「6次産業化」の計画書作成を引き受けた縁で、事業会社の代表に就任。本人が綴(つづ)る壮絶な起業物語だ。
直販に猛反発する漁協相手に一歩も引かない。既存の体制を壊すことにためらう漁師たちと真正面からぶつかり、とっくみ合いの喧嘩(けんか)も辞さない。多くの苦難と試練を乗り越え、結束を強めていった。
「小娘」と罵(ののし)る男たちの心を開かせたのは圧倒的な行動力だ。子供を24時間保育に預け、大阪で営業へ。足の爪が剥がれるほど飲食店を回る。食事をしながらの商談の数をこなすため、食べたものを吐いてまで次へと向かった。島の未来を切り開く夢と「私でも生きた何かが残せるかもしれない」との希望が支えた。
「あんたは苦労を買って出る人やな」と手を差し伸べてくれた大阪の経営者。誤解から喧嘩別れした後、大阪での血の滲(にじ)む営業活動を知り、「ああ、もうこの子には逆らえんなあ」と号泣した船団長。評者も、ふと目頭が熱くなった。
「人は死なない限り、必ず一歩ずつ前進している」。くじけない心に勇気をもらう。=朝日新聞2017年10月8日掲載