- 『バロックの光と闇』 高階秀爾著 講談社学術文庫 1220円
- 『ハリウッド映画史講義 翳りの歴史のために』 蓮實重彦著 ちくま学芸文庫 1188円
- 『空間へ』 磯崎新著 河出文庫 1512円
(1)ルネサンス芸術が優等生なら、続く「バロック」はさしずめやんちゃな不良といったところ。誰にも遠慮しない。人々はそのじゃじゃ馬な精神に魅了されてきた。本来ならルネサンス的な著者もそんな一人。こんがらがりそうなほど濃厚な時代を、著者一流の端正な筆致でわかりやすく解きほぐす。意外な相性の良さ。歴史は語り手を選ぶ。
(2)そう、歴史は語り手を選ぶ。制約をむしろ味方につけ、映画を豊かにすることを惜しまぬ人々。スクリーンの外で演じられる不可視のサスペンス。膨大な情報を緊密に連携させることで「ハリウッド」や「B級映画」の真の意味が読者の目の前で動き出す。
(3)「建築家」を思想家の域にまで再び引き上げたのが著者。誰にも遠慮することなく大胆なプランで揺れ動く現代の都市を綴(つづ)る。新しさだけではない。「翳(かげ)り」もあらかじめ書き込まれる。廃墟(はいきょ)を重ね書きしてこそ新たな建築は可能だからだ。80歳を超えてなお精力的に活動する3人。本物の「知の巨人」による名著を年末年始の夜長に。=朝日新聞2017年12月17日掲載