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「ニッポン エロ・グロ・ナンセンス」書評 文化史のエアポケットだったエロ歌謡を発掘

評者: 末國善己 / 朝⽇新聞掲載:2016年12月04日
ニッポン エロ・グロ・ナンセンス 昭和モダン歌謡の光と影 (講談社選書メチエ) 著者:毛利 眞人 出版社:講談社 ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784062586405
発売⽇: 2016/10/12
サイズ: 19cm/314p

ニッポン エロ・グロ・ナンセンス―昭和モダン歌謡の光と影 [著]毛利眞人

 昭和初期のモダン文化の特徴は、エロ、グロ、ナンセンスだった。表現の規制を受けながらも小説、映画などで華開いた昭和モダンの中に、色恋が題材のエロ歌謡があったことは、本書を読むまで知らなかった。
 著者は、モボ、モガ、カフェーといった当時の流行に触れながら、文化史のエアポケットだったエロ歌謡を発掘していく。淡谷のり子が、水町昌子の変名でモガ・ソングを歌っていたなど、驚きの指摘も満載だ。
 エロ歌謡は良識派に批判されながらも庶民に支持されたが、上海事変で爆死した3人の工兵をたたえる「爆弾三勇士の歌」のレコードが発売されると下火になり、歌謡界もミリ(軍)の時代になったという。
 マンガのエロ、ゲームのグロなど表現規制が厳しくなった現代は、昭和モダンを敵視した戦前を思わせるものがある。エロ歌謡で昭和史を切り取った本書は、エロ、グロに寛容な社会が実は健全だということに気付かせてくれるのである。