「シリコンバレーで起きている本当のこと」書評 IT先進地の「影の面」
評者: 加藤出
/ 朝⽇新聞掲載:2016年10月16日
シリコンバレーで起きている本当のこと
著者:宮地 ゆう
出版社:朝日新聞出版
ジャンル:エッセイ・自伝・ノンフィクション
ISBN: 9784022513991
発売⽇: 2016/08/05
サイズ: 19cm/205p
シリコンバレーで起きている本当のこと [著]宮地ゆう
シリコンバレーを車で回ると、超有名IT企業の華やかな本社が続々と現れてくるのに誰しも圧倒される。しかし、本書は同地域の「影の面」に着目した。
時価総額世界1、2位の企業があるのに、彼らの税金逃れにより地元自治体は財政難に苦しんでいる。「道路は全米で最悪のレベル。公立学校に使う金も、ホームレス対策にも金が足りない」。所得格差が生んだ「社会の歪(ゆが)みや摩擦」も多々描写されている。
だが、そういった問題を踏まえつつ、著者はシリコンバレー的な活気が日本に足りないことを懸念している。インド系移民が互助組織的なネットワークを構築して同地域で近年大躍進している様子と対照的だ。
サンフランシスコでは刑務所までもが起業家養成講座やプログラミング講座を開き、出所者に将来の起業を促している。日本に必要なのは「失敗を讃(たた)えること、多様な価値観を受け入れること」ではないかと本書は我々に投げかけている。