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遠い被爆体験、新世代が描く

リトル・ボーイ (フィクションの楽しみ) 著者:マリーナ・ペレサグア 出版社:水声社 ジャンル:小説・文学

価格:2700円
ISBN: 9784801001619
発売⽇: 2016/05/14
サイズ: 20cm/239p

傷つけられ、虐げられ、極限状態で苦悩する人々の不条理な姿を幻想的筆致のうちに描き出す。広島への原爆投下によって被爆し、その後数奇な体験を重ねた女性の半生をめぐる表題作をは…

評者:中村和恵 / 朝⽇新聞掲載:2016年07月24日

リトル・ボーイ [著]マリーナ・ペレサグア

 七十年経ち、反省の時代は終わった。そんなジェスチャーが目につくいま、先の大戦はいかに語られるのか。ことばの姿勢が新たに問われる現状の文脈は、やむをえずグローバルだ。すべてのことはつながっている。わたしたちはみなよくも悪くもこの状況の当事者だ。断片化・商品化して流通するイメージはときにひどく無神経だが、断片の連なりに血が通えば、遠い人の話が自分のことになる。
 この短編集の表題作、スペイン出身の女性作家が書いた広島をめぐる物語を読み、そんなことを考えた。
 宇都宮のアパートで、語り手は広島出身の隣人Hと知り合いになる。米国暮らしが長く英語が話せるHから、語り手は彼女の特異な人生の物語を聞く。被爆体験だけでない、人にいえない秘密を。ことばにできないことをスクリーンに映せたら、というHに代わり、語り手はHの体験を映像として想像する。子どもが欲しかったというHの想(おも)いは、爆弾と胎児が重なり合うイメージで描写される。
 語りえない体験を前に、かつての重い沈黙ではなくスクリーンの向こう側で壮大に展開する、悲惨な映像がある。ことばが現実とのつながりから離れ、生々しい声と寓話(ぐうわ)の間にすべり落ちるような感覚。
 そんな印象を胸に、時代や設定も多様な、変わった味わいの短編群を読み進めていく。性・身体・生命の感覚を憑(つ)かれたように確かめる、語り手たちの不安。ふと顔をのぞかせる暴力性。親子の確執、そして死。
 表題作に戻ると、この作家の日本イメージの源に日本の漫画や映画があることにあらためて気づく。作中には映画「おくりびと」や六花チヨの漫画『IS〜男でも女でもない性〜』への言及がある。原子爆弾から臍(へそ)の緒が垂れ下がるイメージは、九〇年代以降海外でも評価の高い大友克洋『AKIRA』を彷彿(ほうふつ)させる。デュラスとは明らかに異なる、新しい世代のヨーロッパが想像するヒロシマだ。
    ◇
 Marina Perezagua 78年、スペイン生まれ。小説家。米ニューヨーク在住。日本語訳は本作が初めて。