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「温泉妖精」書評 ともにワケアリ 男と女

評者: 原武史 / 朝⽇新聞掲載:2016年04月10日
温泉妖精 著者:黒名 ひろみ 出版社:集英社 ジャンル:小説・文学

ISBN: 9784087716504
発売⽇: 2016/02/05
サイズ: 20cm/131p

温泉妖精 [著]黒名ひろみ

 ラーメンについて辛口の評価を下すブログで点数の高い店に行ったら、大した味でなくがっかりした——この種の体験をした人もいるだろう。本書の主人公の女性は、ゲルググというハンドルネームをもつ男性の温泉に関する辛口のブログを愛読している。そして唯一酷評されない東北の旅館に行ってみたら、そこは温泉ですらない貧相な宿だった上、ゲルググ本人と鉢合わせてしまう。あげくの果てには、この絶対に出会うはずのない一対の男女が、風呂場で裸のまま向き合ってしまうのだ。
 美容整形して外国人を装っている女性と、温泉通を装っている男性が、互いの「鎧(よろい)」を脱ぎ捨てて文字どおり裸になってしまう展開が、何とも言えずおもしろい。このニセ温泉旅館がどこにあるかは、本書では明かされていない。近くに北上川が流れているということは、ひょっとしてあのあたりか、などと想像をめぐらしながら読むのも一興ではなかろうか。