1. HOME
  2. コラム
  3. 売れてる本
  4. 「日航123便 墜落の新事実」 死者の無念胸に、執念の調査

「日航123便 墜落の新事実」 死者の無念胸に、執念の調査

日航123便 墜落の新事実 [著]青山透子

 1985年8月12日は波乱の一日だった。「グリコ・森永事件」の犯人による終結宣言と「三光汽船」破綻(はたん)の発覚。「戦後最大級」を冠した未解決事件の節目と倒産劇が重なった。そして、夜には航空史上最悪の「日航機墜落事故」が起こる。
 午後6時56分、東京発大阪行きのジャンボ機が群馬県の御巣鷹山に墜落。乗員乗客524人のうち、生存者はわずか4人だった。当時、日航の客室乗務員だった筆者の青山透子さんの胸にあるのは、最後まで職務を全うした先輩たちを含め、亡くなった方々の無念。「圧力隔壁修理ミス」という事故原因に疑問を持ち、執念で証言と資料を集めて大胆な仮説を展開する。
 墜落前、ジャンボ機が小型ジェット2機に追尾されている様子を福祉関係の女性、自衛官の男性、小中学生の男子の計4人が、別々の地点で目撃していた。うち大人の2人は、ジェット機が戦闘機の「ファントム」だったと証言。だが、自衛隊の公式記録では「ファントム」の出動は墜落後になっている。
 筆者は、現場に漂ったガソリンとタールの臭い、歯や骨まで炭となった「完全炭化」の遺体についても疑念を抱く。元自衛隊関係者や大学の研究者らに取材し、臭いと「完全炭化」の原因が、軍用のゲル状燃料である、との回答を得る。
 事故犠牲者が撮った空の写真にある黒っぽい物体。画像専門家が拡大したところ、物体はオレンジ色で向こう側に熱の波動が確認されることから、ジャンボ機の方へ向かっている、と推定できるという。
 墜落現場確定と救出の異常な遅れ▽事故機機長が米軍横田基地と交信した可能性▽ボイスレコーダーが完全公開されない現状▽事故原因がアメリカ側から漏れたこと——など筆者が浮き彫りにするピースをつなぎ合わせると「事件」の絵が浮かぶ。
 異論のある読者はいるだろうし、力んだ推測表現の数々が惜しいものの、筆者の思いの強さと取材力に圧倒された。
    ◇
 河出書房新社・1728円=17刷10万部。17年7月刊行。担当編集者によると主な購読者層は40〜50代。この墜落事故に、関心を抱き続けている人が多いようだという。=朝日新聞2018年5月26日掲載