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稲田豊史「本を読めなくなった人たち」 若者を遠ざける重大な理由

 本を読めなくなった人がいる。それもたくさん。理由は様々だが、象徴的なのは、帯の裏面に列挙される言葉である。「読書は『ながら』ができずコスパが悪い」「村上春樹の小説を10ページも読めない」「数百字を読むより、10分のYouTube動画を倍速で見るほうが効率的」「ネット上にお金を払ってでも読みたい文章はない」「お金も時間もある人の趣味って感じ……」。これらは、実際の発言がもとになっている。

 著者は大学生を中心に「本を読めなくなった人」に取材を重ね、なぜある人は本を読めなくなり、別の人は本を読み続けているのかを調べた。本書が調査を経て見出(みいだ)すのは、本離れは知性の問題ではない、ということである。本離れの要因は複雑に絡まり合い、出版文化の衰退は避けがたいように思われるが、とりわけ重大なのは金銭的な問題だ。いわく、私立大学の新入生の仕送り額(仕送りから家賃を引いた額)が、2024年度は月当たり1万9600円で、1990年の3分の1以下、2010年の3分の2以下。あまりに苦しい変化だ。インク代や紙代の高騰、印刷所の廃業、トラック新法による輸送費の見直しは、本のさらなる値段上昇を迫っている。

 本書は、書籍文化への愛着に基づくロマン語りや高踏的な教養主義の類(たぐい)が、本や書店に関心を示しているライト層を遠ざけているさまも明らかにしている。自己愛的な書籍の擁護では、本も書店も守れない。フラットな認識を持ってこそ、来たるべきあり方をまともに構想することができるというものだ。杉江由次・大森皓太『本をひらく』(本の雑誌社)や、内沼晋太郎のポッドキャスト番組「本の惑星」など、本の役割や意味を内省し、作り方や届け方を再定義しようとする動きが相次ぐ中で、本書が出た意義は大きい。=朝日新聞2026年5月23日掲載

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 中公新書ラクレ・1210円。26年2月刊、6刷4万4千部。『映画を早送りで観(み)る人たち』の続編。「本を読む人にとって、“本を読まない人とはどのような人なのか”がわかる本は、実はこれまでになかった」と担当者。